File10:光の雨

 宣言の後、行動はすぐに起きた。

 皆一様に歩み、目的地へ向かう。

 大行進、と言うのがふさわしいだろう。

 本来、役割ごとに隊はわかれており、その事に位置が決まる。

 前衛隊、後衛隊、索敵隊、治療隊、などによっては位置が決まってる。

 しかし、うちの隊に限って兵科がバラバラなので適する位置が存在しない。

 だから隊群のちょうど真ん中で移動している。

 正直、特攻専門の俺としては辛い位置だ。

 人を避けて前に進まなければいけないというのが最もの理由だ。

 わざわざうちだけ混同した隊にする必要あったのだろうか。

 いや、ならざるをえなかったのかもしれない。

 頭の中でぼやきつつ歩を進める。

「いやぁ、もっと円滑に素早く移動するのかと思ったら大行進とわね、恐れ入ったよ」

 レボーナフも少し呆れを含めた顔になる。

「全くだ。これじゃあ大名行列だぞ」

「ダイミョウ……なんだいそれ?」

「縦一列で万里の長城に並ぶみたいな感じの列のことだ」

「へぇ。どちらかというとブラスバンドのパフォーマンスの方が近いんじゃないかな?」

「あー、あの楽器持って歩いたりするやつか。こんなご時世でまだやってんのか」

 ほとんどAIが人に勝ってしまっている世の中だ、機械でプログラムを打ち込んでしまえば簡単にできるはずだ。

 数十年前の数か国で職種が大幅に減って無職者が一気に増加し、ホームレスが増加した時期があったらしい。

 間接的とはいえ、人間が作ったものに職を奪われるなんて嫌な時代だ。

「楽器はね、機械では出すことのできない音を人には出せるんだ。だから廃れないし、むしろミュージシャン志望者は増えてる」

「俺たちみたいな血と火薬が似合うのが増えるよりはマシだな」

「同意だ」

 さっきからこのような話をしながらの移動、自分で思うのもどうだが軍人らしくない。

 周りは常に周囲に目を配って警戒してくれるおかげでこの余裕ができる。

 うちの部隊は優遇されてる気がする。

 これだと大量のボディーガードに守られているお偉いさんにでもなった気分だ。

 が、こう考えてられるのも束の間。

 ちょうどビルが横に並ぶ坂道を上っている時だ。

 突如太く、青白い光線が一斉に飛んできて頭の上を過ぎていく。

 数人に当たったのか呻くような声が聞こえる。

 奇襲に近い形でやられた。

やっこさんの登場だ! 障害物に隠れろ!」

 前から叫ばれた声で即座に行動に移す。

 皆、建物やその残骸に身を隠す。

 真ん中の俺たちもすぐさま波に乗っかるが、隊なのに早速分かれてしまった。

 近くの建物の角では既に四人が避難していた。

 隠れてもなお光の雨は消えない。

「まだ基地から出て3kmも離れてないぞ! 遭遇が早すぎる!」

「お出迎えじゃねぇか? ようこそアメリカへってな!」

 男二人が戦場だというのにトーク力を発揮、戦争物の見すぎなのではないだろうか。

 女兵士がそっと光の放たれる先を覗いているので俺も覗く。

「距離と数わかるか?」

「距離は80から90、数は……弾幕が濃いせいで駄目ね。少なくとも30は軽いんじゃないかしら?」

「センサーは遠すぎる……ドローン兵はいるか?」

「ここに」

 背中にリュックサックを背負い、ヘッドセットを付けた同い年くらいの男が近寄ってくる。

 リュックからは一本細いアンテナが飛び出し、中から無線音が聞こえる。

「飛ばしてくれるか?」

「口いらず、です」

 男はリュックを一度降ろし、中から小型のドローンとタブレット端末を取り出す。

 ドローンはすぐさま動き出し、上昇していく。

「御覧を」

 タブレットがこちらに向けられる。

 上空からの映像がくっきりと映っている。

 真上からなので数もはっきり見て取れる。

「数はおよそ60。敵の武器は装填いらずのものかと」

「そんな魔法みたいな兵器あんのかよ!?」

 先ほどのトーク男の一人が言う。

 一々声が大きい。

「魔法は連発できないのでより優れてますよ。どうします?」

 ここにいる皆が一様にこちらを見る。

「あー、全員自己紹介とどの隊なのかを頼む」

「第三前衛隊、TJ隊のマクベス、よろしく!」

 トーク男の一人で声が大きい方。

 体も大きいのでわかりやすい。

「同じくTJのニックだ」

 トーク男二人目、こちらはマクベスとは異なりノッポにメガネだ。

 二人も前衛がいると心強い。

「第五後衛隊、AL隊のイルザ。目と背中は任せな」

 この中で勇逸の女性で後衛のできる人だ。

 キーになるだろう。

「第十索敵隊、FL隊のオードです」

 最後に索敵要員。

 彼がいるだけでかなり楽になる。

「俺は特別隊、DT隊のレンだ」

「なら、指揮はあんたに任せる」

「お、いいねぇ! 特別隊は優秀と聞いたし期待だな!」

「異論はない」

「僕もです」

 イルザが提案するとすぐさま全員から了承の声。

 断れる雰囲気でもないので、やるっきゃないだろう。

「わかった。急遽出来上がったこの分隊の指揮をやろう」

 決まると同時に無線連絡が来る。

『ハットリ君、そっちはどう?』

「アオイか、こっちは問題ない。そっちは?」

『今アマンダさんと一緒でさっき先頭で撃たれた人の治療中。火傷と皮膚の腐敗がひどいの』

「皮膚の腐敗?」

『まるで硫酸を浴びたみたいに溶けてて青く変色してる。これって……』

「フランだろうな。あの光線は熱とフランの塊なわけだ」

 フランはウランより安全と言うだけで危険であるのにはかわりはない。

 機人に搭載されている機能の一部だろう。

 戦闘までこなすなんて恐ろしい機械だ。

『あいつら少しずつこっちに向かってっ来てるの。ここまで来る前になんとかならない?』

「そうだな……」

 俺はドローンが映している映像を思い出す。

 ここはビルが立ち並ぶ場所で路地も多くある。

 路地を通れば裏が取れるかもしれない。

 横やりを突くことも可能だ

「アオイ、お前は今やれることをやれ。俺とレボーナフで何とかする」

『わかった。約束」

 そう言うと無線が切れる。

 すぐさまレボーナフに繋げる。

「レボーナフ、そっちはどうだ?」

『こっちは建物の二階から応戦中。 丁度君たちのところから道路を挟んだ向こう側だ』

「そのまま引き付けてくれ。こっちで裏を取る」

『おいおい、五人であの数をやるなんて正気か!?』

「なら手伝ってくれ、集団撃破にはあんたが必要だ」

『わかった、ルートは?』

「路地を使えば行ける。あいつらは十字路にいるからやるなら今だ」

『了解。上官に命令とは……』

 それだけで切れる。

「よし、裏取り作戦開始!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る