File5:戦いは突然に
翌日、俺、アオイ、レボーナフの三人は電車に乗っていた。
普通、国外に行くなら空港を使うのが常識だったが、今はできない。
アメリカ周辺の空は既に機人に占領され、飛ぼうものなら落とされる。
なので、海路を使わざる得ない。
運がいいことに七年ほど前に開発された海底列車がメキシコまで繋がっている。
こいつは海底を走るため奴らの襲撃を受けることはない。
まあ、長時間な上にずっと暗い景色の中を走るから退屈なのが弱点だ。
深い位置に作られているためここまで光が届かない。
昔いた深海魚とかも絶滅してしまったから見ても仕方ない。
他の乗客がいない中、ただただ揺れ、着くのを待つ。
「ねえねえ、まだ着かないの?」
アオイの顔から退屈さが滲み出ている。
俺は端末機で時間を確認する。
「あと……半日は軽いな」
「えぇ~! そんなの暇すぎて死んじゃうよぉ!」
ごもっともだが、我慢するしかないのよね。
戦地に向かうというのが目的だったから娯楽品など持ってきてない。
やらかしたなぁ、と頭を掻く。
「レボーナフさんは煙草吸いに行っちゃったし、こんな事ならトランプとか持て来ればよかったぁ……」
「仮にも俺たちは精鋭、これも試練だと思えばいい」
「ブーブー! そういう軍人的思考はナシ!」
「俺たちは昨日から軍人だろ……」
ブーブーうるさいアオイを抑え、俺は打開案を考える。
そして、すぐに浮かんだ。
「じゃあ、問題を出してやるから考えろ」
「わぁい! ハットリ君ちょろい!」
「そういうのは内に閉まっとけ」
俺が少し怒ってる素振りを見せる。
「ごめんなさい」
するとすぐに謝る、それがアオイだ。
「よろしい。では、問題」
「デデン!」
アオイがセルフで音を付けてくれた。
「上り坂と下り坂、どちらの方が数が多いでしょうか」
「え、難しくない?」
「難しいから問題なんだ。しばらく考えてな、俺は寝てる」
「わかった!」
アオイは指で近所の坂を数えているのをよそに俺はコートを毛布代わりにして眠りについた。
◇ ◇
車内にある小さな喫煙室。
小さな電球のみが室内をオレンジ色に照らす。
レボーナフは煙草を片手に携帯を耳に当てていた。
「そっちの状況はどうだい?」
『整ってきてます。あなたが着く頃には完了しているでしょう』
「そうか。まだかかりそうだから今のうちに休んでおいてくれ」
『わかりました。では』
「ああ」
レボーナフはそう言うと電話を切り、端末をポケットにしまう。
「チケット~、チケットの確認を行っておりま~す」
遠くからそう聞こえた。
(チケットか……あいつらに預けたまんまだったな)
引き戸の扉を開け、通路を確認すると帽子を深く被った車掌が一人こちらへ。
レボーナフは煙草を携帯用の灰皿に入れ、話しかける。
「すみませんが、チケットの確認をさせていただけませんか?」
「すまん、今は連れに預けててな。席まで来てくれないか?」
「あぁ! そういうことでしたら名前と証明書の確認だけでも構いませんよ?」
「そうか、それは助かる」
レボーナフはスーツのポケットを漁り、証明書を差し出す。
車掌は証明書を手に取り、じっくりと隅々まで確認する。
「名前はレボーナフ・ボナパルト・コルッカだ」
「顔も名前も一致。本人証明完了です」
そう言うと車掌は証明書を返し、それを受け取る。
「それじゃあ、俺はこれで」
「ええ……さようなら」
◇ ◇
「……きて……起きて」
「うん……?」
俺は目を擦りながら起きる。
結構眠ったかな。
「問題……解けたのか?」
「解けたけど、これ数一緒じゃん!」
「そうだよ」
「ひどい! どっちが多いなんて言うから二択だと勘違いしたよ!」
まあ、冷静に考えれば簡単なんだよ。
坂は見方によって下りにも上りにもなる、それだけだ。
「一時間も考えたのに!」
「考えすぎだ……」
俺は少し呆れた。
そして、レボーナフがまだ帰ってきてないことに気づく。
「なあ……レボーナフはまだ帰ってきてないのか? 吸いすぎで肺が死んじまうぞ」
「そういえば……遅いね」
そして間もなく、銃声が二回鳴る。
眠気が一気に覚める。
「おい、今の……」
「後ろ……喫煙室のある方!」
「クソ! お前は待ってろ!」
俺は毛布代わりにしていたコートをすぐに持ち出し、走り出す。
連結部にある扉を一つ、二つと勢いよく開けていく。
すると、レボーナフとハンドガンを片手に構える車掌姿の男。
「何が起こった!?」
「すまん、右肩をやられた」
レボーナフは左手で右肩の傷を抑えている。
息も少し荒い。
俺は持っていたコートのポケットからナイフを取り出し、レボーナフの前に出る。
「レボーナフ、逃げろ。ここはなんとかする」
「しかし!」
「怪我してんだろ、この距離だと次はないぞ」
「……恩に着る」
レボーナフは悔しい顔をしつつ、ドアを開け、その場からいなくなった。
俺はコートを隣の席に置いてから少しずつ歩み、男の1m先までくる。
「おい、お前! いきなり銃を発砲とはどういう頭してんだ!」
「君は……レン・ハットリ」
「なんで俺の名前を知ってる?」
「あたりまえだろ。だって君たちは」
男が帽子を取り、顔が露わになる。
その顔はマネキンのようで金属でできていた。
「私たちにとって邪魔な存在なのだからね!」
「機人……こんなとこにもいんのかよ」
「そのナイフで私の体を貫けるかな?」
「ほざけ!」
男が銃を改めて構える。
すぐさま距離を詰め、相手の右手を左手で掴んで寄せ、隙間がある肘の関節にナイフを突き刺す。
「グッ! クソ!」
男は銃を落とし、俺は下がると同時に拾う。
すぐさま銃を両手で構えて撃つが、機人の体には効果なし。
少しへこみができる程度だ。
「やっぱダメか」
全弾打ち終え、使い物にならなくなってしまった。
男も刺さったナイフを抜き終え、こちらにゆっくり向かってくる。
万事休す、か。
「所詮は人間、我々に武力で勝つなど不可能だ」
「……ほざけ」
俺は少しずつ下がる。
「言い残すことは?」
わざわざ遺言を残させてくれるとは優しい。
冷酷なイメージが消えるな。
俺は隣の席に置いたコートを掴みゆっくりと口を開く。
「作り物の……」
「なに?」
「作り物の頭に負けるほど
俺は言い放つと同時にコートを投げつける。
男の視界が防がれる。
俺はもう一つ用意していた武器を出し、スイッチを入れる。
それはみるみるうちに黒い刃が赤くなり、熱をまとう。
「クソ!」
男がコートを払うがもう遅い。
男の
貫通し、上に引き抜く。
刺さった後は黒くなり、金属が溶けて液化している。
「あ、アア……」
男は倒れ、動かなくなる。
機人が停止した証拠だ。
「なんとかなったな……新兵器強すぎだろ」
新兵器のスイッチを切る。
赤かった刃が元の黒色に戻る。
「まさか貫通までできるとはな」
床に落ちたコートを拾い、手でゴミを払いのける。
「さて、戻るか」
後の処理は本物の車掌たちに任せようと、俺は元の席がある車両まで戻った。
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