おめでとうございます!異世界1年分です!!

ちびまるフォイ

トライアングル生活はじまる

カランカラーン!


「おめでとうございます! 金の玉! 金の玉です!

 1等の金の玉は……異世界1年分です!」


「すごい! 異世界1年分!? やったー!」


ある意味、どんな海外旅行よりも手軽で楽しそうな権利を得た。

たくさんの異世界小説を読み込んで準備万端。


「それじゃ、異世界へしゅっぱーつ!!」



10/15(日) 異世界に立つ



公衆トイレの和式便器から到着した異世界は自分が思い描いたままだった。

多種多様な生物が歩く、中世ヨーロッパ風味の世界。


「まるでゲームみたいだ! よーし、満喫するぞー!」


異世界でやりたかったあれこれを試して遊んだ。

ものの1ヶ月もすると飽きてやることなくなってしまう。


「……異世界って意外と暇なんだなぁ」


スマホもなければテレビもない。車もそれほど走ってない。

田舎に帰省したような気分になって来た。


「……戻るか」


異世界の洋式便器を通じて現実世界に戻って来た。

なんやかんやで、こっちの世界の方が楽しいことが分かった。


「たけし、あんたどこ行ってたの! 明日学校でしょ?

 そろそろテストも近いんだしゲームばかりしてないで勉強しなさい!」


「母さん、俺の名前たけしじゃないんだけど……。

 ってあれ? 母さん、今日何曜日?」


「日曜日よ」


「うそ!? 1ヶ月たっているはずだろ!?」


「あんた『サードライフ』やりすぎて頭おかしくなった?」


サードライフとは、俺の大好きなリアル思考オンラインゲーム。

それより重要なのは異世界で過ごした1ヶ月が現実世界で計上されていないということ。


「ふっふっふ、閃いてしまったぜ。恐るべきアイデアがな……!!」


暗黒微笑した数日後、期末テストで超得点を獲得した俺は

敵の首を討ち取った足軽のようにかつぎあげられた。


「いつも赤点だらけだったお前が!?」

「いつもバカ要員だったお前が!?」

「まるで勉強してるそぶりなかったのに!?」


「ははは。地頭のいい人間というのは

 わずかな努力をするだけで、良い点が取れるものなのだよ」



「調子乗ってるところ悪いが、期末が終わって

 次の学力テストは1週間後だぞーー。みんな勉強するように」


「近ぁ!?」


一難去ってまた一難。とはいえ慌てることはない。

期末帰りの解放感で友達とカラオケを行ったり休日も遊んだり。


まさに赤点コースまっしぐらになったテスト前日。

俺は勉強の教材を持って異世界へとやってきた。


「ふぅ~~! よし、勉強するぞーー!!」


異世界で経過した時間は現実世界に影響しない。

俺が異世界にいるとき現実世界は時間が停止しているので、勉強し放題だ。


見た目には一夜漬けに見えるかもしれないが、

異世界では何週間もかけて丁寧にテスト範囲を勉強している。

これで次のテストもばっちりだ。


「あのぅ……ちょっとよろしいですか?」


勉強机から顔を上げると、顔の横に羊の角を生やした獣人が立っている。


「あなた、異世界からの来た人なんですよね?」


「え? ああ、まあそうですね」


「お願します! 私の村が悪いモンスターに襲われているんです!」


「ちょっ……待ってくださいよ! 俺は戦闘なんてできない一般人ですよ!?」


「何言ってるんですか。異世界からきた人はもれなく特殊でチートな能力があると

 先祖代々で聞き伝えられているんです!」


「えええええ!?」


異世界チートの余波がこんなところにも来ているなんて。

その場ではお茶を濁して逃げたが、異世界に行きづらくなってしまった。


「おいどうしたんだよ、学力テストでも学年トップの成績取ったってのに

 便秘の主婦みたいな顔をして」


「なんだそのわかりにくい例え……」


異世界に戻ればまたゲームの続きを始めるように頼まれるだろう。

これではテスト前の異世界勉強計画ができなくなる。


「しょうがない……やるしかないか」


「なにを? 今日の打ち上げのカラオケ?」


「ちげーよ。ちょっと急用できたから今日は帰る」


友達と別れて家に帰ると、修学旅行で買ってきた木刀を振り回して練習する。

来る日も来る日も、敵を倒すシミュレーションをしてから異世界に戻る。


「悪いモンスターは……俺が倒す!」


「おお! ついに来訪者様が本気になられたぞ!」

「なんだか上半身がムキムキになってます!」


現実世界で過ごしている間は異世界の時間が止まっている。

そこで、現実世界で戦闘シミュレーションを行って異世界で敵を倒す。


作戦は上手くいって悪いモンスターの撃退に成功した。


「ありがとうございます!! 本当にありがとうございます!」


「いえいえ、人助けに感謝なんていりませんよ」


「あなたの腕を見込んで冒険者ギルドから依頼が来てますよ!」


「え゛……これで終わりじゃないの?」


始まりでしかなかった、

現実世界で必死に訓練した結果の腕前は相当なもので、

冒険者としてギルドから熱烈オファーが殺到した。ますます断りづらい。


「く、くそ~~……これも異世界で生活するためだっ……!」


唇をかみしめて覚悟を決めたがそう簡単なことではなかった。


現実世界では、異世界用にトレーニングを重ね。

異世界では、現実世界用に勉強を進める。


「たけし、今日遊びいこうぜ~~」


「お前もたけし呼びかよ! ちょっとトレーニングあるから……」


「んだよ、たけし最近付き合い悪いなーー」


「ごめん。本当にごめ……うっ!! 心臓がっ……!!」


寂しそうな友達の顔を見た瞬間に痛んだ心臓。

トゲが刺さるような苦しさを感じた。

胸を押さえたまま意識を失った……。



――ゆうた



――ゆうた



「ゆうた!」


声に目が覚めると家だった。


「よかった。やっと起きたのね」


「……ああ、心臓が急に痛くなってそれで……」


「……何言ってるの? 心臓? いたって健康体じゃない」


「えっ、いや、俺は急に胸が苦しくなって――」


「胸? 何言ってんの?」


親はあきれていた。


「あんたずっと『サードライフ』の世界にいたでしょう?

 いくら起こしても起きないらホントめんどくさい。

 ゲームの世界にいるのもほどほどにしなさいよ」



ゲームの主人公の名前は「たけし」で登録されていた。

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