第2話リスタート


――俺は今絶望的状況に陥っている。


「はぁはぁはぁはぁ……っ! ぐぁぁぁぁ!」

『グォォォォォッッッ!』

 

――猛牛


 神話や本で見たことのあるミノタウロス。巨大な牛の角と人の体を持ったあいつだ。それが今俺を殺そうとしているのだ――


『グォォォォォォォォォッッッ!』

「くっそがぁぁあ!」


 半径100mほどのドーム状の建物の中で戦闘を繰り広げているのだが、既にミノタウロスの強力な剛腕により半壊。地面は至るところにクレートができ、地面は抉れ、足場が不安定すぎる。

 そんな中をミノタウロスは容赦なくボロボロの俺を殴り飛ばそうと拳を振るう。


 もう無理だ……俺には無理だったんだ、こんな世界でまともな生活を送るなんて!


 心の中でそんな事を思った俺は支給された短剣を握るのを止め、ミノタウロスをただ呆然と尻餅をつきながら見続けた。

 鋭く光った鋭利な犬歯。そこから溢れ出すのは殺意という雄叫び。恐怖が体を包み込み震えが止まらない。

 

『グォッッッ!』

(…………死ぬっ!)


 今まさにほとんどの防具が取れインナー一枚となった俺の顔面を殴ろうと腕が伸びた時――


「そこまで!」


 ルーム内に響いたその声は女性の声。

 それはこの試合の終わりを告げ、そして……この世界での生活の終わりを告げていた――



~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ただいま……」

「おかかかええええりりりりり!!! どどどどうだったゆうとくん?」

「察せよポンコツ野郎」


 家へ帰宅した途端ポンコツ野郎のミルアは俺の顔の表情も見ずにデリケートなことを言ってくる。

 

「あ……ごめん。あ! そういえばルーミアさんとかは全員受かったって。凄いよね!」

「いや謝ったそうそうそんなこと言ってくんのかよ! もういいよ! 俺には無理だ! あいつらはどうせ魔法でも使ったんだろ!」


 玄関を抜けリビングへと向かう俺はいちいちイライラさせるミルアに怒鳴る。

 

 なんで俺がこんなめに……。


 今も悲しみが抑えられない俺はこの世界に来た経緯を思い出してみた。

 

 えーと、まず死んで、女神に異世界行ったらウハウハライフですから行きましょう! ってなって、来たらまさかの地球とほとんど同じ場所で、他の異世界人も来てて、魔法とか使えて、圧倒的大差で俺が負けてて、とりあえず学校に行こうとコンプレックスであった名前まで変えて挑んだ入試はミノタウロスにボコボコにされて終了。……そんでこの家は奇跡的になんとなく話したこのミルアの家で、住まわせてもらってて。無一文……。


 どこが幸せウハウハ異世界生活じゃこらぁぁぁぁぁ!

 

 あの白髪女神ふざけんなよぉ!?どこがいい生活だよ! 魔法使ってる奴らが普通にすげーに決まってんじゃん! 俺普通の人だもん! 特典とかなんもねーしふざけんなよマジで!

 

 完全に怒りが抑えられない俺はミルアが恐る恐る手渡したお茶を鼻から飲む。

 

 くそ! まじくそだよ! ダンジョンとかいってカッケェことしてぇじゃん! なのに冒険者にそもそもなれないとか聞いてない! 学校行かなきゃダメとか聞いてない! そして……そんな俺を抜かしていくのは魔法を使える近所の同い年――


「なぁミルア。お前はこんな俺をどう思う?」

「え? ……そ……それはその……」


 真剣な顔の俺を見たミルアは向かいの椅子に座りながら顔を赤らめて斜め下を見る。

 いつもは赤髪をポニーテールにしているのだが今日に限って俺の好きなツインテールというのがまた気に食わん。

 そんな事を思っているとモジモジしたミルアは勇気を振り絞るように震える口を動かした。


「す……」

「す?」


 き?


「すごくダメな人間で、生きる価値がないと思う」

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」


 俺はお茶を壮大に耳から吹き出した――

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異世界の日常は異常だと思ってた? @ryurion

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