パーティーと格差と迷宮と
1週間後、一葉達はようやく実地訓練として、低ランク迷宮【クノウノ地下迷宮】の第1層にやって来ていた。
魔物を倒して、その生態魔力…簡単に言えば経験値を得ることによって、レベルが上がるのだそうだ。
そしてここ、【クノウノ地下迷宮】に出現する魔物は比較的弱い、ゴブリンやコボルトなどの魔物が多く、駆け出し冒険者や騎士などに利用されるのだという。
迷宮は10層移動するごとに、
とはいえ、一葉達はまだLv.1。
このままで突撃すれば明らかな負けはわかっている。
その為にこの階層でレベルを上げるのだった。
「はい!それでは事前にお伝えしていたパーティーを組んでください!」
髭の生えた鎧男、レイクがそう言うと生徒達は事前に振り分けられていたクラスメイトと合流する。
一葉が目的の人物を探してキョロキョロ辺りを見渡していると、背後からぱしんと背中を叩かれる。
「よっ!宗賀よろしくなっ!」
「うおっ!…なんだ、中島さんか、脅かさないでよ」
文句を言う一葉の様子に悪びれずに笑っている女子_
「壱花はそうやってすぐ叩くからダメだよ…ごめんね?宗賀君」
そう言って謝るのは壱花の双子の妹である中島
男勝りな壱花と違い、おっとりとした性格と穏やかな微笑み、そして何よりその年齢の割に大きなお胸様が男子の心を鷲掴みにしており、複数の男子から『マイエンジェル!いや!ウィーアーゴッデス!我らが女神様!』と崇められていた。
「ははっ、よろしく頼むよ。宗賀君」
そう言って爽やかに笑うイケメンは、
勉強は出来るが、運動はそこそこ、しかし何事にも一生懸命に取り組み、途中で投げ出さない。
当然同級生からはモテる、さらに言えば学食のおばちゃんにも好かれていて、よくサービスしてもらった、と嬉しそうに話していた。
本人はよくある、ラノベ主人公のように鈍感というわけではなく、普通にそう言ったことはわかるのだが、意外なことに女性経験が無いせいで告白されると顔を真っ赤にして勢いで断ってしまうという、残念イケメンである。
ちなみにフラれた女子は、別の女子にどこかに引きづられていくらしいのだが、それ以上は女子の闇に触れる部分なので省略させてもらう。
そんな3人を見て一葉は乾いた笑い声を発することしかできなかった。
なんせ、美少女、美少女、イケメン、並である。
ソシャゲで表すなら、ゴールド、レジェンド、レジェンド、ノーマル。誰がノーマルかは言わずともわかるだろう。
そんな顔面偏差値が天空の城すら貫きかねないレベルなわけで。
さらに言えば周囲の男女からの怨みがましい『なんであいつが中島さんと組めてんだよ…!』とか『あんなやつの代わりに私があのパーティーに入って勇輝君と仲良くなりたい…!』だとか、嫉妬と羨望が混じった視線が刺さってしまい、結果として一葉は胃袋に甚大なダメージを受けることになるわけだが。
「「「?」」」
「ははっ、はあ…デスヨネー」
当然ながら3人は「どうしたの?」とでも言いたげな表情でこちらを見ていて、それを見て遣る瀬無くなっている一葉の頭を双葉が撫でたりしたせいで、周囲の男子からの殺意がマックスハートになったりして、もう色々と泣きたい一葉なのであった。
☆
「ていっ!」
「グギャア!」
そんな軽い掛け声と共に振り下ろされた粗末な鉄剣が、緑色の人の子供のような身長の魔物_ゴブリンを切り裂くと、軽い悲鳴をあげて絶命し、崩れるように消えていく。
その後に残っているのは、
魔石は迷宮由来の鉱石で、この異世界でガソリンのような役割を
恐ろしい程に、エネルギー効率が良く、ゴブリン程のサイズの魔石が1つあれば都市の明かりや水道浄化などを2週間は余裕で
それ故に、魔石は高価で取引されるのだが、いかんせんこの世界の住民は弱すぎた。
なのでゴブリン1匹を倒すのにも2人は必要とされていた。
しかし、圧倒的なステータスを持つ勇者達にとっては雑魚は雑魚なわけで、それらを楽々と討伐していた。
だが、残念なことに一葉は他のメンバーとは違い、この世界の住民より少し高い程度のステータスしか無い。
それにも関わらずゴブリンを討伐できたのは、ひとえに仲間のおかげと言えるだろう。
「さ!宗賀!次行くわよ!」
「よっしゃこい!」
壱花の手によってズタボロにされたゴブリンが、ヨタヨタと一葉の前へとやってくる。
一葉はそのゴブリンを剣で殴るだけ、それだけでゴブリンは絶命し、魔石を残して消える。
魔石を拾い上げながら一葉は思う。
これは俺が思い描いていた冒険では無い、と。
確かにレベルは上がった。
もう今の戦闘でレベル5まで上がったのだ。
ありがたい、ありがたいのだがこれではまるで…
「養殖じゃ無いか…」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもないよ」
聞き返してくる壱花に適当な返事を返しつつ、一葉は誰にも聞こえないように溜息をつくのであった。
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