夜中にやってくるやつは大体ロクなやつじゃない
決闘が行われた日の夜、食事を終えた一葉は部屋の中でスキルクリエイトを行っていた。
今、一葉が作っているスキルはℹ︎O内でプレイヤーを虐殺した、ℹ︎O最悪の
丁度スキルが完成したタイミングで、部屋の戸をノックする音が聞こえてくる。
こんな時間に誰だろう、そう思いながら一葉が扉を開くと、そこには飯山とその友人である高崎と
「ん?こんな時間にどうしたの?」
「どうしたじゃないだろぉ?何俺に勝ってんだよぉ!あそこでお前をぶっ潰して女子にモテモテになるはずだったんだぞぉ!」
そう言って鼻息を荒くする飯山。
仮に、あの場で一葉に勝利していたとしても女子にモテるなんてことはあり得ないのだが、頭に血が上った飯山はわからないらしい。
飯山達は一葉の部屋に入り込むと武器を取り出す。
「今度は負けないぞぉ!」
「…まあ、スキルの性能チェックに使わせてもらうよ」
「うるさい!死ね!【四連斬】!」
その身体に見合わぬ素早さで放たれた四連の斬撃を一葉はバックステップで躱し、テーブルの上に置いておいた剣を掴む、するとそこに狙って放たれた高崎の弓術スキル【一点貫通】が一葉の身体を貫こうと迫るが、一葉はこれをオリジナルスキル【アイス流し】で弾くと、矢は明後日の方向へと飛んでいき、消滅する。
この【アイス流し】というスキルは【凍結魔法】と剣術スキル【受け流し】を合成することで、元々身躱し用のスキルであった【受け流し】の回避率を【凍結魔法】で上昇させることに成功したスキルである。
唯一のデメリットといえば、スキルを発動している間、手が冷えまくるというところだろうか。
矢が効かないと見るや、柏田が火魔法の【
爆火撃は言うなれば、爆発する火炎瓶のようなものだと考えてもらえればいいだろう。
爆発が伝播しまくるため、ℹ︎O内で昔から対人戦の際に重宝されていた。
昨今では一葉の開発したスキルによって封殺も可能になってしまったため、使われることは少なくなったが、いまだ根強いファンを残すスキルである。
そんな爆火撃を前にして一葉はオリジナルスキル【諸刃の砦の影】を発動。
瞬間全身から血液が噴出する。
しかし、一葉はそれを代償として神速を手にした。
迫り来る炎弾を軽やかに躱すと、背後で爆発。
その爆発の余波すらも加速に利用し、一葉は柏田を殴り飛ばす。
殴り飛ばされた柏田は突っ立っていた高崎と飯山を巻き込んで倒れる。
一葉は3人に近寄ると柏田に剣で触れる。
「まあ、楽しめよ【
一葉はそう呟くと、剣を滑らせる。
すると二連の不可視の刃が柏田を切り裂く。
更に、剣に触れていない筈の2人にも同様の現象がしばらく起こった後、停止する。
このオリジナルスキル【
効果としては、攻撃された対象へのダメージの半分を一定範囲内にばら撒き、同様の効果を付与する、といったものである。
要するに始めに放ったダメージの1/2のダメージが更に1/2になって延々と続く、というスキルだ。
残念ながらこれは未完品、プロトタイプで、『ジャック』に渡したスキルは他のスキルを使用して、完全にプレイヤーが死ぬまで続く攻撃となっていたのだが、これはダメージを与えられる限度が来れば、効果がなくなる。
とはいえ、低レベル帯で、この攻撃はそれなりに効いたらしく飯山達は全身を傷だらけにしながら呻いていた。
「で、どうする?まだ続けるの?」
「ぐっ…覚えてろよぉ!」
飯山はそう言い残すと、他の2人を置いて走って逃走する。
いや、回収して行けよ、と1人部屋の中で溜息を吐く一葉であった。
☆
翌朝、1番に朝食を終えた一葉が修練場へ行くと、そこでは朝食の席に居なかった雄二がストレッチを行っていた。
すると、雄二は一葉に気づいたようで、やる気なさそうに軽く手を挙げる。
「よお、朝から早えな。よく眠れたか?」
「はい、ぐっすりと。先生は何をしていたんですか?」
一葉がそう尋ねると、雄二はタバコに火をつけ、一服。
「俺か?いや、ちょっとな…あ、そうだ」
いいことを思いついたとでも言いたげな顔で、雄二は一葉の肩に手を乗せる。
(…なんだかすごく嫌な予感がするなー)
そんな一葉の予感は的中する。
「おい、宗賀。俺と練習試合でもやろうや」
にっと、満面の笑みでそう言うのであった。
一葉はそんな雄二の手を握るとにっこりと微笑む。
「お断りしま_痛たたたたたたたた!」
みちみちとまるで万力のように一葉の肩を握る手に力を込める雄二。
「ん?なんか言ったか、宗賀」
「だからお
「大丈夫だ、先生ちゃんと話してるだろ?肉体言語で」
「言葉は通じなきゃ意味ないんですよぉおおおおお!」
一葉がそう叫ぶと、詰まらなそうに「ふんっ」と鼻を鳴らして、雄二は手を離す。
「うぉおお…痛え…ずくずくするぅ…」
「殺る気がないんじゃしょうがない…強制的に殺る気にさせてやんよ!」
そう言うと雄二は、獰猛そうな笑みを浮かべて脚術スキル【縮地】を発動し、一葉との距離を詰めると格闘スキル【三連星】を発動。
「先生、それはやる気の字が違うんじゃないですかね!?」
一葉は迫り来る拳をギリギリのところで盾術スキル【トリ・シルド】を発動すると、一葉の前に3枚のシンプルな盾が出現し、雄二の攻撃をガードする。
雄二の拳が1枚目の盾に触れた瞬間スキルで作られた盾が全て破壊され、一葉の盾にも衝撃が走る。
一葉は衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされると、無様に地面に激突する。
「カハッ…!」
「オイオイ!これで終わりだなんて言わないでくれよ!」
倒れた一葉の頭めがけて【縮地】によって近寄った雄二の踵が振り下ろされる。
一葉はそれをオリジナルスキル【アイス流し】で流すと、勢いを利用して離脱、瞬時に体勢を立て直す。
「マジで許しませんからね!このニコ中教師!」
「ハッ!全力でかかってこい!それと俺はニコ中じゃねえ!常人よりちょっとタバコを吸わないとイライラするだけだ!」
それがニコ中と言うのだが、というツッコミは心にしまって一葉はオリジナルスキル【反複ザード】を発動する。
すると、一葉の頭上に複数枚の盾が出現し、六角形を形作ると数瞬の後、中から指向性を持った吹雪が雄二目掛けて飛んでいく。
オリジナルスキル【反複ザード】は、盾術スキル【反射盾】と【重複詠唱】、そして【凍結魔法】をクリエイトしたスキルで、効果は凍結魔法の威力を重複詠唱の詠唱数×2するというものである。
ちなみに、スキルLv.3時点での重複詠唱の詠唱数は4であるため、4×2=8
つまり、8倍の威力になるのである。
この【反複ザード】だが、ℹ︎O内では割とポピュラーなスキルの組み合わせで、火魔法と組み合わせた【反複バーン】、風魔法と組み合わせた【反複ロン】など、もはやネタにしか聞こえないようなスキルが大量に生み出されていた。
そんな絶大な威力を誇る吹雪を前に、雄二は…笑っていた。
「ははは!やるじゃねえか!褒めてやる!だが…俺を殺るにはちと足りねえな【
残像を残しながら振り抜かれた雄二の足から幾数もの黄色い光球が発生し、浮遊する。
そして、雄二が足を地面に着くと、光球から極太の雷が吹雪目掛けて放たれると、吹雪と雷が激突し、しばらくの拮抗の後、吹雪が掻き消されてしまう。
吹雪を消し飛ばした雷は、一葉目掛けて飛んでいき、それを後ろに跳んで躱した一葉の後ろに立っていたのは─
「はあ…僕の負けですね」
「そういうこった。中々良かったぜ」
そう言って口の端にタバコを咥えたまま余裕の表情で立っている雄二だった。
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