第拾と玖の幕 『以心伝心』
「お帰りなさいまし」
「うわっ
ピっピエールさん」
「おやおや、
また驚かせてしまいましたな」
「あぁ気にしないでください。
大抵のことにこんななんで」
「それはそれは・・・
で、いかがでしたかな?」
「あぁ
お陰さまで、無事逢えました。
自分で解決してくるそうなので、
ここで還りを待つと約束してきました」
「そうですか。
それは良かった」
「はい
色々とありがとうございます」
「いえいえ、
貴方の勇気と行動力ゆえです」
「だと嬉しいのですが・・・
そう言えば、途中、
ヘイスケに随分と助けられました」
「それはそれは・・・
お役に立てて
彼も満足していることでしょう」
「こっちに居た頃の
無口なヘイスケと違って
かなりの剛者でしたけど。
結果的に心強い水先案内人でした。
あれが本当のヘイスケなんですかね?」
「貴方はどう思われますかな?」
「ん~
堅物というか生真面目と言うか、
融通が利かないと言うか
確固たる信念を持っていると言うか、
あっちに居ても、こっちに居ても
可愛げが無い頑固者だという事に
変わりは無いけど、
結局は全部ひっくるめてヘイスケかな。
どれが本当のなんてナンセンスですね」
「なるほど、なるほど」
「それに、
実際、行動を共にしだしてから
今この瞬間ですら、アヤカの事を
ずっと護ってくれてるし、
何だかもう、他人な気はしないなぁ」
「それを聞いたら彼も喜ぶでしょう」
「そうかなぁ
私には悪態しか目に浮かばないなぁ。
でも、正直、感謝はしてます」
「では、アヤカ様を無事連れ帰ったなら
労うといたしましょう」
「そうですね。
私も一度ヘイスケとゆっくり
話をしてみたいです」
「それはそれは・・・」
そう言うと、ピエールさんは
アヤカな人形へと視線を移した。
まるで、
親が愛おしい我が子を見るような
柔らかく温かい眼差しだった。
「ところでユウキ様。
貴方は、ご自身の理を
探しに来たのではないのですかな?」
「えぇ・・・そうです。
今までそれどころじゃなかっただけで、
アヤカがこちらに戻るまでに
オレはオレで解決しとくって
アヤカに大見得を切ってきました」
「先程、ちょうど一つ空きが出来ました」
「えっ?
還って来た人が居たんですか?」
「えぇ、貴方が還って来られる
ちょっと前でしたよ。
あそこがそうです」
そう言って、部屋の角にそっと佇む
無機質な人形を指差した。
「あのプレートに触れと?」
「貴方が望むのであれば。
勿論、決めるのは貴方自身。
私はこれ以上の介入は
許されておりません」
「ピエールさん、オレ行ってきます。
アヤカだって飛び込んだんだ。
オレも行きます」
「それはそれは
では、良い旅を・・・」
「ありがとうございます。
行ってきます」
例のプレートに触れると、
アヤカの時と同様、意識が吸い込まれた。
気が付くと、昔住んでいた自宅傍の
中学校の正門前に立っていた。
まだ陽は高く程よく温かい。
人影は全く無い。と言うより気配すらない。
アヤカの時と同じで独特な空気感だ。
この中学校は私の母校。
小学校でも高校でもなく中学・・・
小学生ほど無邪気でもなく、
高校生ほど擦れても居ない、
複雑な年頃。それが私の時代の中学生。
中学と言えば大抵の者は多感な時期に当たる。
私もそれに漏れることなく
良くも悪くも色んな思い出がある。
そうこう考えていると学校の敷地内に
恐らく当時の生徒達らしき姿が
校舎に、校庭にと動き回っていた。
ちょうど、昼休みの時間だろうか。
その何気ない光景がやけに懐かしかった。
自分の居たクラスのあった校舎を1年から
順に2年、3年と目で辿っただけで
当時の幾つかの記憶が呼び起こされた。
アニメやマンガに感化されて
格好良く活躍することを夢見て入った部活。
入っては見たものの『努力と根性』という
ある意味アニメやマンガに忠実な
厳しい現実を目の当たりにし、
自身、ほんの少し経験することで
早くも挫折と逃避を経験した。
実力もないのに努力もしないまま
毎回、根拠の無い自信だけで挑み
惨敗だらけだった中間テストに期末テスト。
何故か、小さい頃から、結果を求められる
テストの類は嫌いではなかった。
結果はいつも中の下か下の上くらいだった。
小学生気分が抜けきらず遊び呆けていた
3年間全ての夏休み・・・
だけじゃなく冬休み&春休み。
ゴールデンウィーク然り。
元々、几帳面を通り越して
神経質で心配性なこともあり、
宿題は割りと早めに片付けていた。
自分なりにに真剣に取り組んだ2大祭、
『体育祭』に『文化祭』。
目立ったり、人が多いのは苦手だったが、
傍から見てる分には好きな光景だった。
中でも、準備期間が好きで、
あの放課後の雰囲気は最高に好きだった。
休み時間や昼休みを利用して行った
グループでの話し合いや買出し。
普段見せない顔をする友人達を見るのも
密かに楽しみのひとつだった。
そう言えば、中学の3年間、
私のクラスでも『いじめ』はあった。
学年が変わる毎に
クラス替えがあったにも拘らず、
3年間、全てにそれはあった。
私はいじめたことは一度もなかった、が、
今考えれば、無関心や見てみぬ振りしてた
自分を含めた人間もいじめた側の人間だ。
要するに、『いじめ』が発生した時点で
拘った者はいじめた側かいじめられた側の
どちらかにしか成り得ないということだ。
大抵は公にならずに黙認されていた。
学び場であるはずの公の場で、
本当の意味での連帯責任を行使し
ヒトの根本を学ぶ機会だったにも拘らず
それをみすみす見逃したことになる。
『いじめ』は被害者だけに心に深い傷を
ざっくりと鮮明に残してしまう。
今現在、その被害者達の心が少しでも
救済されていることを願うばかりだ。
また、先生による贔屓や差別は確かにあった。
しかし、当時は生徒がブー垂れるくらいで
親を巻き込んでの大騒動なんてのは
今と違い、ほとんど無かった。
当時、親が学校に来るなんて大事だったが、
今では、些細なことでも親が顔を出すことが
あるようだ。最近は、昔と違い色んな立場が
逆転しているようだが、何とも複雑だ。
また、一つのステイタスのように
塾通いしてる生徒も多かったが、
私の場合、少々の優越感と色恋目当ての
稚拙で単純な理由で塾通いしていた。
親にはとても言えない話だが、
成績を見る限りバレバレだったろう。
それでも黙って行かせてくれていた両親に
今では感謝の念しか浮かばない。
当時、不良と呼ばれていた
先輩、同級生、後輩も近所に居た。
隠れタバコにバイクの無免許運転、
万引きやカツアゲなど噂は絶えなかったが、
不思議と警察沙汰になったことは無かった。
面倒見のいい先輩や生意気な後輩、
自分の親よりも親っぽい友達の親も
記憶に鮮明に残っている。
今思えば、あの頃は良い意味で
今より人間くささがあった気がする。
今は人間関係にどこか無機質さを感じる。
女の先生や保健室の先生に憧れたり、
異性を性の対象として意識しだし、
性に興味津々だったのもこの頃だ。
小学生のころ転校して来た
双子の美人姉妹に一目惚れしたまま
中学3年間、そして、高校3年まで
片思いし続けたりもした。
途中、幾度と無くアプローチを掛けたが
何れも撃沈に終わった。
当時は、そのどれもが
ヒトに相談できない程の
真剣な悩みだったはずだが
今となっては、
微笑ましい青春の1ページで片付く。
『いじめ』以外は・・・
こうやって振り返ってみると、
学生時代と社会人な今、
時代と共に変わってきたと思っていたが
根本はそうでもなさそうだ。
明らかに変わったと言えば、
持っていたはずの『純粋さ』や『正義』、
これがココロの隅の方に追いやられて
狡猾さを身に付けたり、計算高くなったり、
ヒトを信用しなくなったりしながら
無駄に歳を重ねてきただけの
つまらない大人になってしまっている。
年相応な経験を積み、間違いを犯し
見守られながら成長してきたつもりだが、
結果、ひねた子供の様な私がここに居る。
自分に納得出来ない自分が・・・
良い悪いではなくこれが現実。
分かってても、変えようともしない、
変わろうともしない・・・これが現実。
「さて・・・と・・・どうしたものか」
アヤカの時は明確な目的があった。
やる気もあった。自然と体も動いた。
しかし、今回は相手が自分自身な上に
目的があまりにも抽象的過ぎる。
何をどうすればいいのやら。
私の真の理・・・そもそも何だソレ
知ってはみたいものの、
皆目見当もつかない上に、少々面倒臭い。
「おい」
「うわっびびった」
「陳腐な反省は終わったか?」
「あっ・・・ヘイスケ・・・さん」
「先入観を捨てきれんヤツだ」
「頭では分かってるんですけど・・・」
「ふん、プライドが邪魔するか」
「そういうわけじゃ・・・」
「この際だ、はっきり言っておいてやろう。
お前は常に自分に都合の良い持論を並べ
何かにかこつけて現実から逃げてるだけだ
他人のためという大義名分を匂わせ
その実、全て自分に都合よくなるよう
計算して諭し行動している。
しかし、徹しきれないお前は
自己の罪悪感を和らげるために
他人にも極力甘い。
そうすることで、自分の逃げ道を
常に確保している。
ずる賢い人間の典型だ、お前は」
「・・・分かってますよ、そんなこと」
「だろうな。
だが、分かっているだけだ。
まぁ他人に直接的な被害も
与えてはいないだろうし
さして不快な思いもさせてはいないだろう。
そういう意味ではお前は表向き
人畜無害なただのお人好しだ。
そうやってお前は、
お前自身とお前を信じる者を
巧妙に騙しながら生きてきたんだ。
このまま、お前が自分自身から
逃げることを止めない限り、
これからも何一つ変わることは無い。
他人を信じることも出来ず
他人に信じられることも無く
不毛な人生が続くだけだ。
お前が独りで生きていくのであれば
何も問題ではないし勝手にすればいい。
しかし、他人と生涯を共にするつもりなら
お前自身変わる努力をするか
本当の自分を曝け出して
受け入れてもらうか、
若しくは、死ぬまで演じ通すしかない。
でなければ、相手の人生を弄ぶことになる。
よ~く覚えておけ」
「・・・」
ぐうの音も出なかった。
自分でも嫌いな一番醜い部分を見透かされ
はっきりと正確に指摘された。
普通にムッとしたが、その倍凹んだ。
しかし、悪い気はしなかった。
自分の本心を見抜く他人の存在に
嫌悪を感じることなく安堵するのは
何故なのか、不思議な感情だった。
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