第拾と参の幕 『旅立ち』

 今回も、何の問題もなく

あっさりと中に入れた。

細部までは覚えていないが

ほぼほぼ同じようだ。

「昨日とおんなじだねぇ」

「うわっ

 もぉ~」


いい加減、慣れない自分が残念でならない。それとも、アヤカが神がかり的過ぎる

のだろうか。いずれにせよ、

この体質というか臆病をなんとかしたい。

一日でも早く一皮も二皮も剥けたいものだ。一瞬、視線を感じそちらに目を向けると

あのカウンターが目に入った。

「あっ」

「うおっ

 何だよ急にっ」


「ほらあれっ」


アヤカの指差す方を見ると

例の立て掛けカードがあった。

見ると『お帰り』とだけ書いてあった。


「お帰りって・・・」

「たっだいまぁ~」

「うわっ・・・

 落ち着け、いい加減慣れろオレっ」


「えへっ

 ユウキかわいぃ~」


「やかましっ」


「昨日と変わってるのは

 『お帰り』くらいだなっ」


「えへっ

 覚えてなぁ~いっ」


「さいざんすかっ」


「あっちに道があるよぉ」


「おいっそこまでぽんこつだと

 めっさ心配になるぞっ

 あそこは、昨日通った廊下だろっ

 ここが同じならだけどな」


「いこっいこっ」


「うわぁ~

 まぢ心配になってきた。

 行きたいのか?

 ってかまぢで覚えてないのか?」


「昨日のは覚えてるよぉ

 でも、ここ昨日と違うとこだよぉ」


「・・・何でわかんだ?」


「熟女の勘」


「・・・嫌いじゃ・・・ないけどなっ

 ってか、その域に達するには

 まだ先が永いっ」


「・・・」


「何で無言なんだ・・・

 まぁいいやっ

 なんも嫌な予感もしないし

 行くだけ行ってみるか」


「れっつらご~」


「本当に言ってるんだなぁ」


返事が来るかと思いきや

普通に私を置いて先に歩き出した。


「無視かっ」


敢えて独り言にした。

昨日と同じで壁は絵で覆われている。

描いてあるものも、たぶん同じだ。

暫く歩くと、あの広間に出た。

部屋もちゃんと3つあり

条件も全く同じことが書いてあった。

「とうっ」

「うわっ」


掛け声と同時に扉を開くアヤカ。


「おいっそこはっ」


といい終わる前に


「なんちってっ」


と速攻閉めた。


「わざとかっ今のは心底びびったぞっ」


「えへっ」


いつものように笑ったかと思った瞬間、


「おっさき~」


と、昨日の部屋へと入っていった。


「おいっ

 一人で行くなよっ

 危ないだろっ」


すぐさま後を追い部屋に入った。

2秒・・・恐らくそれくらいだ。

にも拘らず、部屋の中に

アヤカの姿は無かった。


「アヤカ~」


返事も姿も無い。一瞬で頭が白くなった。


「アヤカ~っ」


慌てて部屋を見回すと

昨日と違い、人形が全て揃っていた。


「あっ」


引き寄せられるようにその人形に近づくと

そこは、昨日パネルだけだった

人形の居なかった場所だった。


「ここは・・・」


パネルを見ると『アヤカ』と書いてあり

簡単なプロフィールが書いてあった。

恐る恐る顔を上げ人形の顔へと

視線を向けると思わず仰け反った。

「うわっ」


そこにはヘイスケっぽい人形が

生気のない眼差しで正面を見据えていた。


「アヤカ?・・・」


服装もルックスもどう見てもアヤカだ。

しかし、腹話術人形のような見た目、

アヤカがヘイスケ化したかのようだ。


「アヤカっアヤカっ」


呼びかけるが全く反応がなかった。

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