第拾と弐の幕 『真刻冥館』

「ユウ・・・キ?

 大丈夫?」


「ヘイスケはどうだ?」


「ヘイちゃんどう?」


首を横に振るヘイスケ。

見えているのは私だけだった。

見えたと言う事は・・・

携帯を開き改めて写真を確認した。

真の理が見えてない者・・・

私だけが真の理が見えていない

そういうことだ。しかし・・・何の・・・

こないだは、何も知らずに看板に従い

刻冥館へと辿り着き踏み入った。

何の勇気も覚悟もなしに・・・

結果、不思議な体験をし、

ヘイスケが同行する羽目となったが

私一人がどうこうなった訳ではない。

所謂、連帯責任的な状況だ。

私に見えてない真の理と

ヘイスケの存在・・・

一体どういう関係なのか・・・

あの看板の内容を改めて見た上で

私にだけ看板が見えるこの状況。

あの内容からすると、

つまり、見えても行く義務は無い。

気にならなければスルーでもいい

そういうことだ。

しかし、見えた以上、あそこまで書かれて

スルーするというのも癪に障る。

結局、見えたほとんどの人は

向こうの思惑通り行くことになるだろう。

何となく、手のひらの上で

転がされている感が否めない。

こないだは、事情を知らなかった為、

ただの見学に終わったが

事情を理解している今回はかなり気が重い。

真の理のことは是非知りたいが、

理解してない状態で

ヘイスケの強制同行だったことを考えると、

理解している今回は

どんななんだ・・・想像すらできない。

「ど~しますかぁ」

「おわっ

 完璧なタイミングだぞ・・・今のもっ」


「えへっ

 看板は見えないけど小路は見えるよぉ。

 行ってみる?」


「お前はいいのか?」


「うんっ

 ユウキの思う通りでいいよっ

 ヘイちゃんはどう?」


普通に頷くヘイスケ。


「ヘイちゃんもいいってさぁ」


「そっか・・・

 じゃぁ~行ってみるかっ」


「レッツラゴー」


「なんだその昭和なノリは」


「えへっ

 でもこれ口癖だよぉ~」


「口癖?

 5年付き合ってて初めて聞いたぞっ」


「聞いたじゃなくて

 気付いた・・・でしょっ」


「そうなのか?

 言ってたっけ?・・・」


「うんっ」


「思い出せんっ

 それより二人とも、

 刻冥館、ホントに行っていいんだな?」


「ユウキが良ければいいよぉ」


この言葉に便乗するかのように

ヘイスケも頷いた。


「わかった。

 色々と複雑だけど・・・

 じゃぁ~取り敢えず向かうぞっ」


「おぉ~」


二人とも完全に遠足なノリだ。

気の重いこちらの気持ちは

お構いなしのようだ。

まぁ、一緒にどんよりされても

それはそれで迷惑な雰囲気になる為

結果オーライと言ったところだろうか。

軽いノリでといきたいところだが

なかなかそうもいかない。

今回は恐る恐る小路へと左折した。

この道も桜に覆われてることを除けば

こないだと同じ感覚の道だ。

恐らく、もう少し行ったところで

視界が拓け、周りを桜に包まれた

直建ての天守閣が見えてくるだろう。

「と~ちゃ~くっ」

「うわっ・・・

 今回は耳元で絶叫かっ

 鼓膜が逝ったぞっ」


「膜、貼ったげようかぁ」


「結構です・・・」


「あららぁ」


「あららって何がだっ?」


「えへっ」


取り敢えず、予想通り

満開の桜に囲まれた天守閣が現れた。

こないだと同様、看板の前に駐車した。


「着いたぞっ

 また、入ってみるか。

 何か手がかりがあるかもしれないしな」


「そだねっ」


と言いつつ、

既に入り口へと向かっているアヤカ。

言われなくても入る気満々だったようだ。


「ん?

 ヘイスケ?行くぞっ」


首を横に振るヘイスケ。


「はぁ?どうした?

 行きたくないのか?

 お前のことも分かるかもしれないんだぞ」


全力で拒否するヘイスケ。

そして、クラッと・・・


「ヘイちゃんは行かないよっ」


後ろからアヤカの声がした。


「はぁ?

 何で?」


「わかんないけどそんな気がするの」


「だって・・・

 ここはオレらも勿論だけど、

 どっちかっつ~と

 コイツの方が本命だろっ」


「でも、

 本人が行きたくないって言ってる以上

 無理には連れて行けないよぉ」


「無理にって・・・

 しょ~がね~な~

 じゃ~大人しく車の中で待ってろよっ

 勝手に出歩くんじゃね~ぞっ」


後部座席で頷くヘイスケを残し

二人で入り口へと向かった。

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