第玖幕 『共鳴』

「おっ流れ星」


アヤカより早く、ヘイスケが反応した。


「どこどこっ」


「お前の真後ろっ」


ヘイスケが慌ててそちらを見たが

見れるはずもなく、

キョロキョロしていたのが面白かった。

そもそも、ヘイスケに流れ星なんて

分かるんだろうか。


「えぇ~私も見たいぃ~」


「オレはさっき何回も見たぞ。

 このまま、見とけば見られるんじゃね」


「よぉ~しっ見るまで絶対に瞬きしないぞぉ

 ヘイちゃんも瞬きしないで見とくんだよっ」


アヤカお前は無理だろっ

まぁ運が良ければ可能か・・・

ヘイスケは激しく頷いてクラッと・・・

相変わらずで少しほっとした。

見てると二人とも速攻、瞬きしていた。

10秒ももってないじゃん。

て言うかヘイスケ・・・

お前はしなくても平気だろっ

その後、数分もしないうちに、

全員がそれぞれ流れ星を見ることができた。


「やっぱさぁ

 瞬きしないと見れるもんだねぇ」


「いや、かなりしてたぞっ」


「えぇ~っしてた?」


「あぁ」


「しないように頑張ったんだよぉ」


「普通にしてたぞ」


「えぇ~おっかしいなぁ

 でも、見れたからいいやっ」


でしょうね。そうくると思いましたよ。

相変わらずで安心しました。


「ヘイちゃん何してんのぉ?」


見ると、ヘイスケは手刀を構えたまま

星空を見上げ微動だにせずにいる。


「ん?まさか、流れ星を斬るつもりか?」


「・・・」


次の瞬間、ヘイスケが

何かを・・・というか明らかに流れ星を

避ける仕草をした後、斬りつけた。

・・・石川五ェ門かっ

お前の右手は斬鉄剣じゃないだろっ。

因みに、流れ星はつまらん物じゃないから

絶対に斬れないぞ。

勿論、スッカスカの空振りだったが、

落ちてくるとでも思ったんだろうか。

それはそれで面白いから

ヘイスケには教えないでおこう。

頭の中で意地悪な虫がそう囁いた。


「う~さむっ

 もう車に戻ろうっ」


「そだねっ

 ヘイちゃん車に戻るよぉ」


軽く小刻みに頷いた後、

注意深く空を見上げながら

アヤカの後を付いていった。

ずっと眺めていたい光景だったが、

あまりの寒さに車へと戻った。


「流れ星、結構見れたなっ

 ヘイスケにはちょっとした

 衝撃体験だったみたいだけどな」


「びっくりしたねっヘイちゃん。

 でも、大丈夫だよっ

 流れ星はほぼ落ちてこないから」


ヘイスケは表情を変えずに

そのままもう一度、窓から空を見上げた。

どうやら『ほぼ』という単語が引っかかって

素直に安心できないようだ。

今後の話もしたかったが、

話は明日することにして

ロックを掛け車内で寝ることにした。


「取り敢えず、今日はここで寝るか。

 話は明日しよう」


「わかったぁ

 おやすみぃ~」


疲れていたのだろう、5分もしないうちに

助手席のアヤカから寝息が漏れている。

後部座席のヘイスケを見ると

当たり前といえばそうだが

眠ることなく外を見ていた。


「ヘイスケ悪いっ

 その毛布取ってくれ」


後部座席のヘイスケの横にあった毛布を

こちらによこすように頼んだ。

意外と素直に手渡してきた。


「おうっ

 サンキュっ」


それをアヤカに掛けると

ヘイスケが軽く何回か頷いていた。

何だそれ?私がかぶったら

喰らわすつもりだったんだろうか。


「なぁヘイスケっ

 お前、アヤカのこと好きだろっ」


「!!!っ」


さすがに、無視しきれなかったようで、

見慣れた驚愕の表情を見せた。

その驚いた表情に

『大好きです』とはっきり書いてある。

何とも分かりやすいリアクションだ。

と言うより、声が出せない以上、

驚いた表情しかバリエーションの幅がない

というだけだが、たぶん合ってる。


「お前は分かりやすいな。

 なぁ・・・お前、一体何者なんだ?

 あの刻冥館ってとこで

 1体だけ居なかったあれお前だろ・・・

 『よろしく』なんて書いてあったし

 誰かがお前を私らに託したってことか?

 お前に何してやれって言うんだ?

 いやっもしくは、逆か?

 意図が全く分からんっ

 

 オレもどうかしてるな・・・

 人形に話しかけるなんてな・・・

 

 まぢお前、幽霊の類とかじゃね~よなっ

 それか、地球外生命体とか

 未来から来たアンドロイドとか・・・

 ん~~~オレの脳じゃ

 こんな発想が限界だっ」


ヘイスケは大人しくただ聞き入っている。

・・・ように見えた。


「オレら、『よろしく』を解決しないと

 帰れないのかね~元の世界に・・・

 分からなければ一生このままで

 ここで不本意な死に方をするか、

 運よく生き延びたとしても

 いずれお前に見取られて死ぬか。

 もしかしたら、アヤカ欲しさに

 お前が私を殺るか・・・

 三人で仲良く~なんて

 想像もつかないもんなぁ

 いや、オレとアヤカの間に

 子供が出来る可能性があるなぁ

 もちろん、出産となれば

 オレは大パニックで

 役立たずだろうが・・・

 こんなことなら、助産婦のいろはくらい

 目を通しておけば良かった。

 ん~~~

 いざという時に備えてとはよく言うが、

 実際『いざという時』なんて

 そうそう起こるもんじゃないから

 備えなんて考えたことも無かったなぁ

 ましてや、

 出産の知識だなんて皆無だもんなぁ

 今までぬるま湯に甘え過ぎてたつけか。

 今回のは、いい教訓になったよ。

 『時既に遅し』感は否めないけど・・・

 

 って、これじゃ妄想独り劇場だな・・・

 

 さぁオレも寝るかっ

 ヘイスケっ

 お前も眠れなくても

 一応、目だけでも瞑っておけ。

 何かしらは違うかもしんね~からなっ」


ルームミラー越しのヘイスケが頷いた。

・・・やっぱりちょっと変わってきてる。

気長に待てば、親近感が生まれるんだろうか。

そんなことを考えていたら

急に睡魔が襲ってきた。


「ヘイスケっ

 オレも寝るからなっ

 何かあったら起こせよっ

 じゃ~おやすみっ」


意識が深く深く吸い込まれていった。

と思ったら還ってきた。

疲労困憊してるならまだしも

こういう状況で眠れるような

鉄のハートは持ち合わせちゃいなかった。

ここは所謂、敵地だ。唯一の味方は、

鋼のハートなのか万年お花畑なのか熟睡中だ。

監視役は・・・


「おわっ

 こえ~よヘイスケ。

 嘘でもいいから目を瞑れ。

 監視されてるみたいで余計寝れんわっ」


本気で監視してるのか、ただ単に人形だから

寝る必要が無いからなのか、

何れにせよ起きている。

起きているならまだしも、

瞼全開で私をガン見している。


「目を見開いたままオレを見るなっ

 必要以上に怖ぇ~だろっ

 しかも何で、

 アヤカじゃなくてオレを見てんだっ

 まぢ、何かする気だったろっ

 だが、安心してゆっくりしてろっ

 オレは今夜は一睡もせんっ

 ざま~みろっ」


「・・・」


ヘイスケが私に対して

初めてリアクションを仕掛けてきた。

口をアクアクと動かしている。

アヤカはこれで理解できていた。

コミニュケーションが

取れてるように見えたが、

実はアヤカの一方的な思い込みに

ヘイスケが合わせていただけかもしれない。

あくまで想像だが。

私はと言うと、全く理解できないし、

空気すら伝わってこない。

相性のせいだろうか・・・


「ヘイスケっ

 悪いがオレにはさっぱりだっ」


するとヘイスケは

そのまま後ろにもたれて目を閉じた。

寝ると言いたかったのだろうか・・・


「でっ何で目を瞑ったら口が開くんだよ。

 お前そういう仕組みじゃないだろっ」


この言葉に目を開けたら口が閉じた。

見てると、瞬きには反応しない。


「瞬きは大丈夫なんだなぁ

 今までも気付かなかったし・・・

 もっかい目を瞑ってみなっ」


素直に目を閉じるとまた口が開いた。


「お前、わざとじゃないよなぁ」


すると、こちらを見て

口をアクアクとさせて何か訴えている。


「ん?

 わざとじゃない?

 小さい頃からの癖?嘘つけっ

 お前に小さい頃なんかあるかいっ」


ん?今、私は理解できたのか?

それとも勝手に想像したのか?

そう考えていると、ヘイスケが

また口をアクアクしている。


「ん?

 だめだっやっぱわかんねぇ

 さっきのは何だったんだ・・・」


今度は高速アクアクだっ

必死さは伝わるがそれ以外は何もわからんっ


「ヘイスケっ

 やっぱ、オレには無理だわっ

 さっぱり分かんね~もん」


すると、今度は超スローアクアクだ。


「いやっヘイスケっ

 速さの問題じゃなくてな・・・

 理解というか何と言うか

 とにかく、

 何にも感じ取れないんだわっ

 わり~なっヘイスケっ」


ん?待てよ・・・

ヘイスケは話すことはできないが

こちらの言う事は聞こえてはいるし、

一応、理解もできている。

手は開いたままの形状のため、

字は書けないがリアクションは出来る。

ヘイスケからの発信は

私が理解できない為、

私からの発信をリアクションで

『はい』『いいえ』方式にすれば、

少しはコミュニケーションが取れる。


「ヘイスケっ今後、オレが言う事に

 『はい』なら右手を、

 『いいえ』なら左手を上げてくれ」


すると、早速左手を上げた。


「いきなり拒否かいっ」


ヘイスケは、全く慌てる様子も無く、

ゆっくりと右手を上げなおした。


「やっぱ拒否るってことか?

 それとも間違えて訂正したのか?」


左手を上げるヘイスケ。

そしてすぐさま右手を上げなおした。

何だか既にややこしい。


「あっそうか、わりぃ

 一問一答じゃないとだめだよなっ」


この言葉にヘイスケが頷いた。


「だよなぁ

 オレもバカだなぁ」


そしてまた頷くヘイスケ。


「・・・!!!

 なんだぁそれでいいんだっ。

 今まで通り頷くか、顔を左右に振るかで

 分かるじゃんっ」


ドヤ顔的な余裕の表情で

何度もゆっくりと頷いて見せるヘイスケ。


「オレはドアホウかっ」


速攻頷くヘイスケに、

恥ずかしいやら悔しいやら

穴があったら入りたい気分だった。


「くそっ不覚っ」


普通にしてるであろうヘイスケの顔が

ドヤ顔に見えてしょうがない。

人間の心理とは何とも厄介なものだ。

と・・・考えてもしょうがないため

気を取り直して改めてヘイスケと

コミニュケーションをとることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る