第陸幕 『未知との遭遇』
「アヤカ~
ノートパソコン今日も持ってるか?」
「うん。あるけど、何で?」
「ちょっと貸してくれ」
「うん」
そう言うと、バッグにしまっておいた
ノートパソコンを取り出し手渡してきた。
「おうっ
サンキュっ」
起動後、動画サイトで
時代劇を検索、適当に選んで
画面をヘイスケに向けた。
「ヘイスケ、ここをよ~く見てろっ」
素直に見入るヘイスケ。2~3秒後、
いきなりのカラー画面と音が流れ始めた。
ヘイスケは先程の倍のリアクションで
限界まで後ずさりした。
お陰で、私も笑い転げて
ハンドルで腰を打った。
・・・天罰
すると、体勢を立て直したヘイスケが、
パソコン画面に流れていた
映像をいきなり指差した。
「びびったろっヘイスケっ」
「もぉ~ユウキぃ
可哀想なことしないでぇ~」
「刺激だよ~シ・ゲ・キっ
脳は刺激されると活性化するんだぞぉ~」
「そうなると、どうなるの?」
「成長するんだよ、色々と」
「そうなのぉ?
その割りにユウキは成長しないねぇ」
「やかましっ」
ヘイスケに目を向けると
私らのそんなやりとりを他所に、
何度もパソコン画面と
自分の頭を交互に指差している。
こいつもアヤカ同様、切り替えが早い。
パソコンに対する免疫がもうできたようだ。
それか一つのことしか考えられないかだ。、
「ん?頭がどうかしたのぉヘイちゃん?」
「その画面に映ってる
髪形にしたいってことだろっ
ちょんまげにさっ」
画面を覗くと、てっきり時代劇のちょんまげ
かと思いきやCMの男性だった。
「はっ?これがいいのか?まじで?」
反応が無い。
「これがいいの?」
アヤカの問いに激しく頷いた。
激しく頷いた後にまたクラッときてる・・・
そ~かそうかオレは無視かっ
「ってかお前、脳とかないだろっ
何でクラッてすんだ?」
次の瞬間、ヘイスケが目を大きく見開いて
こっちを見た。
『失敬なっ』と目が訴えている。
「ユウキ~やめなよぉ~
ヘイちゃんに失礼だよぉ~」
「冗談だよ・・・冗談・・・半分・・・」
冗談という言葉に少し落ち着いたようだが、
さすがに半分という言葉に手が刀に伸びた。
しかし、刀は無い。まだトランクの中だ。
それすら覚えていないのか必死に探している。
その必死さが滑稽を通り越して
気の毒に感じた。
「わかった、わかったよ。オレが悪かった。
刀はさっきトランクにしまったろっ。
それに、そんな感情表現できるんだもんな。
あるよな~脳みそ」
ふとヘイスケに目をやると、
微妙に納得出来てない感じだ。
「何か悪いこと言ったかオレ」
「脳みそってのが気に入らないんだよぉ~
ねぇヘイちゃんっ」
また激しく頷いた。
そして、またクラッときてる・・・
ツッコムのは流石に気が引けた為やめた。
「悪かったよ。脳なっ脳。
脳みそじゃなくて」
そう訂正すると、
ヘイスケは全身ご満悦状態で
上から目線で頷いて見せた。
その表情にこちらがカチンときたが、
すぐに笑いが鼻から抜けた。
10台ほど停められそうなこの駐車場にも、
車は1台も停まっていない。
あの屋敷と同じだ。
良く見ると奥のほうに歩道が続いている。
「おいっあそこ、道があるっ
行ってみるかっ?」
「あ~行くいくぅ~ヘイちゃんもおいでっ」
アヤカの誘いが嬉しかったのか
高速で頷いて、またクラッとしてる。
何とも嬉しそうに降りてきたが
余韻のせいで足取りはヘベレケだ。
道に沿って歩いていると
見晴らしのいい小高い丘に出た。
小さな展望台らしきものもある。
やっぱりと言うか、誰一人居ない。
都合はいいが、根本的に寂しい。
「そ~だっヘイちゃん、
ここで髪切ってあげようかっ
誰も居ないし、きっと気持ちいいよぉ~」
「おうっヘイスケっそうしてもらえっ」
アヤカの提案に激しく賛同している。
最後、お約束通りクラッともしたし
私にはリアクションもない。
「ほぉ~徹底的だなっ」
当たり前のように、私が
道具一式、取りに戻る羽目になった。
準備完了、これまた当たり前のように
調髪中は見るなとのお達しで
1時間程、完全放置となる。
一通り景色を堪能したが
時間は10分も経ってない。
仕方なく、車で昼寝でもすることにした。
40分後にアラームをセットして寝た。
思いの外、熟睡したためだろうか
アラームより少しだけ早く目が覚めた。
「・・・うわぁ~~~~~~」
そこには、逆さに覗き込む
ヘイスケのドアップがあった。
目が覚めた理由はこっちか。
ただならぬ気配、殺気に近い・・・
「おまっ今、ご臨終しそうになったぞっ」
「こぉ~らっヘイちゃん、
驚かすと置いていかれちゃうよぉ~」
言葉とは裏腹に、満面の笑みのアヤカ。
私はそんなに
器量が小さく見えるのだろうか。
まぁ実際、置いて行こうと思ったが。
「お前の仕業だろっ」
「えへへっ
バレたぁ~?」
「えへへっじゃねぇ~
もうちょっとで走馬灯が
始まるとこだったぞっ
それにっ、こいつが好んで
オレに構ってくるはずがね~もんよぉ」
「そんなことないよね~ヘイちゃん
で、どう?ヘイちゃん似合ってるでしょ」
アヤカに言われるまで
私はヘイスケの顔しか見てなかった。
改めてヘイスケの顔から頭へと視線を移すとあの髪型がヘイスケの頭の上に乗っていた。
「!!!っ」
・・・呼吸困難になった。
笑い死にっていう死に方が本当にあるんじゃ
ないかと二人に思い知らされた。
ムッとするアヤカとご満悦のヘイスケ。
どちらにも悪いと思ったが、
この笑撃は恐ろしく殺傷能力がある。
「やばいっ
やばいぞヘイスケっ
オレを殺す気かっ」
「ユウキ笑いすぎっ
私的には結構自信作なんだよぉ」
「いやっセットは最高だっ。
流石だっ。お前の腕は一流だ。
しかし、この組み合わせはまずいだろっ
まぁ一切怖くは無くなった。
それはそれで大成功だ。
真剣に考えると大成功の大失敗だ」
「えぇ~そうかなぁ~」
「おまっ本気で良いと思ってるのか?
だとしたら、
オレはお前にセットは頼まんぞっ」
「えぇ~」
「若干だがヘイスケに同情するほどだっ」
「ひどぉ~い」
「ひどいも何も
お前・・・これで満足なのか?
いくらヘイスケのリクエストとは言え
ストレート過ぎやしないか?
プロとして何かこう・・・
アレンジするとか、せめて
違和感無い様にするとか・・・」
「そっかなぁ・・・」
そんな中、ヘイスケがいきなり胸を張って
私とアヤカの間に割って入った。
私の方を向いてるということは
アヤカへのヘルプのようだ。
にしても、真顔にこの髪型
色んな意味でポテンシャルが高すぎる。
一気に場が和んだ。
「まぁ・・・
こいつが気に入ってんならいいかぁ
どぉ~せ、誰とも会わないだろうしなっ」
「ヘイちゃん?
ほんと大丈夫?
私に気を遣ってない?」
ヘイスケは激しく頷いて
お約束通りクラッときてた。
「お前に気を遣うって・・・」
それ以上言うのはやめた。
さて、売れない旅芸人のようなのを乗せた
この状況で、どこへ行こうか。
そもそもこの山・・・抜け出せるのだろうか。
今のところ、誰ともすれ違わないし
追い越されもしない。やはり変だ・・・
そう考えながら車を発車させた。
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