第肆幕 『葛藤』

 結局、あの天守閣『刻冥館』と

そこに居たであろう『動く人形』に

『よろしく』の立て札。

あの部屋を選んだ時点で始まったのか、

もっと前、あの『刻冥館』という看板、

あれを目にした瞬間に始まったのか、

どこからが別世界の始まりなのか

全く見当もつかない。まぁ現実として、

こうなると分かってて選んだ訳でもなく

もし、あそこでどの部屋にも入らなければ

そのまま、何事も無く帰れたのかとか

いろんな疑問と妄想の『たられば』を

繰り広げたところで所詮は机上の空論。

考えてもしょうがない。成る様になる。

そう思うと少しだけ気が楽になった。


「どうしたのユウキっ大丈夫?」


「あっ・・・あぁ何でもない。行くかっ」


「おぉ~」


ルームミラーには、楽しげに手を挙げる

二人の姿が映っていた。

冷静に見れば不思議・・・

というか不気味な光景だが、

ご当地キャラの被り物と思えば

全く違和感が無いと思えることに気付いた。いざ、エンジンを掛けたものの、

行き先もないままブラブラするのは

性に会わない。さて、どうしたものか・・・

この人形侍を人目に晒すのは避けたい。

面倒は御免だ。どこなら大丈夫なんだ・・・


「どっか行きたいとこあるか?」


思いつかなかった為、

安易に答えを求めたに過ぎない。

ほぼほぼ却下だろうが

参考までに聞いてみただけだ。

私もどうかしてきているようだ。

人形と普通にコミュニケーションを

図ろうとしている。


「温泉っ」


「お前は腐るからやめろっ

 ってかアヤカ腹話術はやめろ

 まんまじゃね~かっヘイスケで遊ぶなっ」


ヘイスケがこちらを睨んでいる。

アヤカにいじられることは

不快じゃないらしい。


「わかったよヘイスケっ邪魔しね~よっ」


満面のドヤ顔のヘイスケ。

何とも単純なヤツだ。

入ってきたであろう小道を出口へと進む。

向かっているのは果たして出口なのだろうか。

もしかしたら、次の屋敷に繋がっていて

ヘイスケもどきが増えまくるとか

もっと想像も出来ない

異次元へと向かっているとか・・・

車酔いとは違う吐き気がしてきた。


「だ~いじょ~ぶっ」


「えっ?」


「ん?

 どしたのユウキ」


「いやっお前が大丈夫って言うから」


「えぇ~

 私もヘイちゃんも何も言ってないよぉ~

 ねぇヘイちゃん」


「うん」


「また腹話術かっ。

 てか大丈夫って言っただろ

 お前かヘイスケが?」


「言ってないよ?ねぇ~ヘイちゃんっ

 それより今、口動かさないで言えたよぉ~

 びっくりしたぁ?」

 

「それくらい口閉じてても言えるだろっ」


「うんっあっほんとだぁ~」


「良かったなぁ」


「うんっ」


「またかっそれより気にならないのか?」


「何がぁ?」


「だからっ

 大丈夫ってちゃんと聞こえたんだよっ

 でもお前もヘイスケも違うんだろ?」


「うんっ」


「ん?

 それだけか?」


「うんっ」


「気にならないのか?

 大丈夫の声の主」


「気になると言えば気になるような・・・

 ならないと言えばならないような・・・

 きっと気のせいだよぉ

 気にしない気にしない」


「いやっまぁ

 気にしないでおけばそれでもいいんだが

 いいのか?それで・・・」


納得は出来なかったが

証明できない以上、話しても無駄と

自分に言い聞かせた。

ルームミラーを覗くとヘイスケとアヤカは

何やら別件で楽しそうに話している。

ように見える。小さな不可思議現象は

大は小を兼ねる的な処理をされるようだ。

5分経ったか経たないか位で

普通に舗装された道路へと突き当たった。

先程と同じように看板もある。

パッと見、元の世界っぽい。

細部まで覚えている訳ではないため

そうとしか言いようが無い。

しかし、一度感じた違和感は、

そう簡単には払拭できない。

見るもの全てが疑わしい。

ここは元々私達がいた世界なのだろうか・・・

山並みの風景と舗装された道路を見る限り、特に変わった様子は無い。そう考えていると

いきなり後部座席からチョップされた。


「いてっ

 おまっ・・・

 いってぇ・・・

 何すんだヘイスケっ

 お前の体は人体と違って

 かなり硬てぇ~んだから

 手加減をしろっ

 頭が割れて尻になっちまうだろっ」


「運転中ぼーっとするなってさっ」


「なっ誰のせいだと思ってんだっ」


次の瞬間、ヘイスケは思いっきり目を見開き

こちらを指差して

アヤカの服を摘まみながら訴えた。


「ね~っ

 ヘイちゃんのせいじゃないのにね

 もっかいちょっぷして

 頭をお尻にしちゃえっ」


「おいこらっ

 って、ヘイスケっ

 お前も真に受けるんじゃないっ」


「ケチだねぇ~

 頭がお尻になったら面白いのにねっ」


激しく頷き、クラッとした。

本当にいい加減、学べ・・・ないのか・・・

声に出すのはやめた。

呆れるのを通り越して

気の毒にさえ感じられた。

小道から本通りとでも言うべき

2車線の道路に出て5分程走っていると

ルームミラーに何かがもそもそと

動いているのが見えた。

見るとヘイスケが何やら

兜の位置調整をしているようだ。

ずれるか蒸れるかなんだろうか。

何気に神経質なんだろうか

微妙な調整を繰り返している。

その仕草が面白かったため

暫く傍観することにした。

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