第弐幕 『刻冥館 結』
若干、後ろ髪を引かれながらも
部屋を後にし、来た道を戻っていると、
途中、妙な違和感を感じた。
壁に絵は描かれているが
若干時代背景が違うような・・・
良く見ると、左壁の絵は明治っぽい、
右壁は幕末・・・さっき来た時は
左壁は戦国時代だったような・・・
幕末だったっけ・・・
思い出そうにも朧げだったため
思い込みだろうと自己解決した。
フロントのあるフロアに着くと
フロントが右手に出てきた。
普通に考えれば一周したことになるが
あの部屋は出入り口は一つしかなかった。
と言うことは、
来た道を戻ってきただけのはず・・・
途中分かれ道も無い一本道だった。
やはり何かがおかしい。
それにこのフロント・・・左右が・・・
「ぎゃっくだぁ~」
「おわっ
おまっ」
「ふっしぎぃ~
さっきと逆だねぇ~」
「お前と一緒で助かったよ。
普通なら大パニックだぞっ」
お陰で、少し冷静になれた。
後ろの大きな掛け時計が
振り子と共に時を刻んでいた。
総てがさっき入ってきた時とは
真逆になっているようだ。
鏡像とか反転してるとかではない。
単純に逆なだけだ・・・恐らく。
「これ・・・
やっぱりさっきの時計は動いてない。
ここと違って
空気が静まりかえってたもんな。
ここは空気に動きを感じる」
「うん・・・
この動いてる時計見て分かった。
さっきの時計は
やっぱり動いてなかったよねぇ」
「だよなぁ・・・
やっぱおかしい・・・
誰かいるとかそれ以前の問題だ」
「みたいだねぇ」
気配を探るが何も見当たらない。
「そこら辺の文字とか、
時計の文字盤とか
逆になったりしてないしね~」
「なんだその観察力と冷静さは。
まぁいいや
ここ、出よう」
「わかったぁ」
最初の静寂な雰囲気と違ってはいるが
別に気味悪くも、居心地悪くも無かった。
ただ、無性に街に帰りたくなった。
カウンターを横目に外へ出ようとした瞬間
さらに違和感を覚えた。
「ん?」
見渡すがやはり特に何もない。
と、ドアに手を掛けた時、
カウンターに目が留まった。
今まで時計にばかり気を取られていたせいか
気付かなかったが、プレートに書かれていた
『ようこそ』の文字が
『よろしく』に変わっていることに気付いた。
「あれっ
やっぱ変だわ」
私の視線の先を見て
アヤカもその変化に気付いた。
「あぁ
ほんとだぁ」
「お前っほんっとに緊張感ないなぁ~」
「なにがぁ」
「その話し方だよっ」
「えぇ~
だってぇ~これが普通だもんっ」
「まぁ~い~けどさぁ~
ってそれどこじゃないっ
誰かいますかぁ~?」
「よろしくっ」
「うわっびびっ・・・ってないっ
急に何言い出すんだよっ」
「あれ読んだの」
「はぁ?
急に大声出すのはやめれっ」
「はぁ~いっ」
最期に、もう一度
辺りを注意深く目と耳で探ったが
それ以上の変化は見つけられなかった。
「もしかしてっ」
無性に車が気になり
アヤカの手を取って扉を開けたが
車はちゃんとそこにあった。
まっ昼間なだけあって、外もまだ明るい。
ほんの少しだけ安心したが
今度は車内が気になったため
急ぎ足で車に戻った。
ロックは掛かっている。
どこにも傷も無い。
タイヤもちゃんと付いてる。
急いでロックを空け車内に滑り込んだ。
最後の関門、エンジンも難なくかかって
ほっとしてルームミラーが目に入った瞬間
全身の毛穴がすぼんだ。
「!!!っ」
あまりにもびっくりして
言葉も出なかったが、ケツが浮いた。
「どしたの?」
金縛りだろうか、声が出ない。目の動きで
アヤカに後部座席を見るように促した。
気付いたアヤカは普通に後ろを振り返った。
「あっ
無くなってる」
いやっ増えてるだろがっ!!!
やはり声が出ない。
って言うか何が無くなってんだと
アヤカの視線の先を辿ると
建物が・・・天守閣が無くなっていた。
「えっ?
あれっあっ・・・声が出る」
「不思議ぃ~」
「ってかアヤカ降りろっ
今すぐ車から降りろっ」
「やだぁ~なぁ~にぃ~
怖いよぉユウキぃ~」
「いやっこっちの方がこえ~からっ」
そう言って、
無理矢理アヤカを外へ押しやり車を離れた。
「なんだよあれっ
ってか、天守閣もどこいった?」
「二人で不思議体験しちゃったのかなぁ」
「過去形にすんなっ今まさに真っ只中だっ」
「だねぇ」
「だねぇ
って・・・天守閣もだけど、
今はそれじゃない。
あっちだあっち」
「ん?」
天守閣が無くなってる事にも
十分過ぎる程驚いている。
ただ、あったものが無くなるより、
無かったものが増えてる方が今は大問題だ。
「あれだよっあれっ」
車の後部座席を指差した。
何の警戒心も無く車に近づくアヤカ。
「おいおいっ近づくなっ
離れたのに何でわざわざ近づくんだよっ。
こっからでも見えんだろっ」
次の瞬間、纏わり付くような視線を感じて
条件反射のように左を向くと、
私の真横にソレは立っていた。
「うわっ~~~」
「きゃっ」
腰が抜けた。
先程の展示室に一人だけ居なかった兵士・・・
恐らく・・・こいつだ。
「びびってねーぞっ」
「何も言ってないよぉ
大丈夫?ユウキぃ」
「いやっお前に言ったんじゃなくて、ほらっ」
と私を見下ろすそいつを指差すと
アヤカはそちらに視線を向けた。
「ん?」
「・・・」
「ん?」
と驚く様子もなくこちらに向き直るアヤカ。
アヤカの反応に、思わずオウム返しになった。
そいつは無言のままこちらを見ている。
「ん?どしたの?」
その流れでもう一度、視線で促すと
アヤカも再びそちらを見た。
が、やはり驚かない。
「なぁに?
そこに何かあるのぉ?」
どうやら私にしか見えてないようだ。
あまりにも質感のある透けてない
ちゃんと足の付いた人形が。
アヤカには見えていないようだが、
これは確実に実体としてここに居る。
その証拠に、影がある。
ある意味怖いが辺りが明るいせいか
表面的な意味での恐怖は感じない。
その人形は、
何も言わずこちらを見据えていたが
急にアヤカの方を見た。
不思議と嫌な予感はしなかった。
そのまま暫くアヤカを見ていたが
表情にも行動にも変化は無く、
アヤカも気配すら感じていないようだった。
暫く、時間が止まっているかのような
錯覚を覚えたが、
その静寂を打ち破るかのように
その人形はゆっくりと
アヤカからこちらに視線を戻した。
まさか、目からビーム的なものを出して
攻撃してきたりはしないか
子供のような、テレビの観過ぎのような
稚拙だが無くもない想像が頭を過ぎった。
互いに視線が合ったまま動けずにいると
「ど~こみてんのっ」
「!!!っ」
と、アヤカがこちらを覗き込んだ。
思いっきりビックリしたが
ビックリし過ぎて
声も出ず体が飛び跳ねただけだった。
「だいじょ~ぶですかぁ~
帰っておいでぇ~」
そう言いながら、そのまましゃがみこんで
両手を振って見せた。
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