第弐幕 『刻冥館 転』
「お先にど~ぞっ」
「おわっ
押すなっバカっ」
「えぇ~だってぇ
ユウキがちんこたらしてるから~」
「ちんたらだろっ。
区切るとこ間違えたら
まんまじゃね~かっ」
「えへっ」
「えへっじゃないっ」
「あっ」
「えっ?
うわ~っ」
アヤカの視線に振り向くと
何体かの人影が見えた。
承知していたが完全に忘れていた為、
素でかなり驚いた。
「なんだよ・・・人形じゃん・・・」
「・・・」
改めて見渡すと若干仄暗く、
真ん中に据えられた行灯の
蝋燭の灯火がゆらゆらと揺らいでいる。
その揺らめきに合わせて
部屋が強弱を帯びながら
まるで生き物のように躍動して見えた。
良くよく見るとここも八角形をしており、
畳敷きでおよそ20帖程の広さがある。
「やっぱここ、絶対誰かいるよな~」
「・・・」
「!!!っ」
返事がないことに慌てて振り向くと
にっこにこのアヤカが居た。
「おまっ・・・わざとかっ」
「えへっ
びっくりしたぁ?」
「せんっ」
本当はあとちょっとでちびるとこだった。
「わっ」
「おわっ」
ちょっと出た・・・
「おいっ・・・乳揉むぞっ」
「きゃ~
ここじゃやだぁ~
エッチぃ~」
「見ないなら出るぞっ
出たけど」
「えっ?
・・・なぁに?」
そう返事したが絶対に上の空だ。
ある意味、助かった。
既に意識が完全に人形にいってる。
この切り替えの早さというか
完全隔離の自分世界の確立というか
おそるべし天然。
このマイペース加減、羨ましい限りだ。
展示されている人形は、予想していた
リアルな蝋人形じゃなかったこともあり
気持ちが少し大きくなった。
腹話術で使われるあんな奴だ。
まぁ~じっくり見れば
こっちのが怖いが・・・
大抵のホラー映画の人形はこういう類いだ。
人形はそれぞれの壁に等間隔で並んでいる。
人形の足下には説明文だろうか、
パネルが飾られている。
それぞれの壁際に3体ずつ・・・
いや、真正面の壁の真ん中の人形がない。
ドアのあるこちらの壁際も
ドアの都合上2体しかいないが
真正面の壁際も2体だ。
わざと対象にしたのだろうか・・・
「ん?」
「どしたの?」
「いや・・・正面の壁のあそこ。
真ん中、パネルだけで
人形がないな~と思って」
「ほんとだぁ~お手洗いかなぁ~」
「かもなっ」
「そんなわけないしぃ~」
「当たり前だっ」
全部で22体だ。
「お前はそっちからかっ」
「ん?」
「普通、こういうの
左から右回りに回らないか?」
「左から右回り?むむむ・・・
意味わかんないっ
私はいつもこっちからだよぉ」
「あれっ
決まりは無いんだっけ?
お前、オレと同じ右利きだよな?」
「うん、そだよぉ」
そう言いながら既に右に出発進行のアヤカ。
「話は聞くだけ聞くけど
言う事は聞かないのなっ」
「ん?」
「何でもありません。
どうぞお進みくださいっ」
しょうがなしに後に従ったが
なんとなくむずがゆかった。
右から順に説明文込みで見て回ったが
差して興味をそそられるものは無かった。
一般的な下級兵士の
コスチューム案内のようなものだ。
綺麗に手入れされてる感がある。
それなりの格好にこの人形の顔は恐過ぎる。
絶対に目が動くパターンだ。
そう言い聞かせながら
人形と目だけは合わさないようにしていた。
「ユウキ~
この子かわいいぃ~」
先を歩いて見ていたアヤカが
声を掛けて来た。
「俺らより年上だぞたぶん。
この子はやめれっ」
「えぇ~
だってぇ~かわいいんだもんっ」
「かわいい?
こえ~だろここの人形の顔」
そう言って
思わずその人形の顔を見てしまった。
その人形と目が合った瞬間
そいつが瞬きした・・・ように見えた。
ほんの一瞬だったため
気のせいかもしれないが
何故か妙にひっかかる。
何時もなら、こういうことは
気にせずスルーするが
今回はいつものソレとは
ちょっと感覚が違った。
暫く直視するも何も起きない。
他に目を向けてサッと振り返っても
何の変化も無かった。
「やっぱ気のせいか」
「ん?
どしたの?」
「なんでもねっ」
右から順に見て回り、
人形のいないとこまで来て
そこのパネルに目をやると
『よろしくおねがいします』
と書いてあるだけだった。
それを読んだ瞬間、立ち眩みがして
その場にしゃがみこんだ。
どれくらいだろうか暫く間が空いた。
「どうしたの?
ユウキっ大丈夫?」
「・・・大丈夫ちょっと立ち眩みが・・・」
「どっかで休む?」
「大丈夫っもうおさまった」
「ほんと?
無理しないでね」
「あぁ」
立ち上がろうと視線を前に向けると
先程のパネルが目に入った。
「よろしくって・・・何を?」
「何だろうねぇ~」
「うわっ
何で耳元なんだっ
いろんな意味でゾッとしたろっ」
「あぁ~
びっくりしたんだぁ~」
「せんっ。
ってか病み上がりもどきに
そういうことはやめれっ他界するだろっ
全部見てさっさと出るぞもうっ」
「はぁ~い」
次の瞬間、ボ~ンボ~ンボ~ンと
3回古めかしい音が鳴り響いた。
「おわっ」
「時計の音かなぁ」
「っぽいな・・・
ん?でも・・・
あのカウンターの後ろのやつ動いてたか?
来る途中にも見かけなかったよな?」
「むむむっ」
「まぁいいやっ
とにかく、折角だから
ここぐるっと見てから戻ろう」
「うんっ」
音を聞いてから残りの人形とパネルは
本当に見ただけで
意識は既に部屋の外に向いていた。
一通り、全部見て部屋を出ようとした時、
恐ろしく視線を感じ振り返ったが
誰とも目は合わなかった。
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