召喚術士と図書館の魔女 (『走れ!エランダーズ Adobe Adolescence Ⅰ<召喚術士と図書館の魔女>』)

日竜生千

Ⅰ 期 召喚術士と図書館の魔女

オープニング

villain

 人を惹きつけてやまぬ闇がある。


 日没とともに訪れる世界は、誰の心にもある昏い側面に似て恐れをあおる一方で、己の暗部に通じる昏いものに人は強く引きつけられる。


 男はその闇に姿を与えた。


 人のなりをした悪の象徴のような存在。


 過剰な力で他者を圧倒し、欲しいものを欲するままに手にしながらも孤独、歪な強さを持つがゆえの悲しみを手に、闇に生きる覚悟をした者。


 狂戦士というには美しく、黒騎士というには退廃として、魔王というにはせつない支配者。


 悪役とは哀しく気高く美しいがゆえに一層の影を増す。

 世界のことわりを変える忌むべき力を操る孤高の魔法使いこそが、畏怖する闇の形にはふさわしい、と。


 身近な人間から最も遠く手の届かない理想の存在を、知識と経験と想像力でひたすら膨らませ高みを目指した結果––––––


 この世で最も危険で恐ろしく、しかし胸のすくような理想の実物に、彼は会いたいと願うようになった。

 思い浮かんだ方法はひとつ、理想に自分から近付けばいい。叶うなら、いつか悪の魔法使いになりたい。

 そのために……。


 –––––– まだ幼かった少年は、ささやかな野望を心に抱いた。

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