17 第21営内班
「もたもたせずにさっさと脱ぐ!」
偉そうな態度の衛生士官にせっつかれるようにグラハムと周りの新兵たちが服を脱ぐ。
身体検査があることは分かっていたが全裸で受けることになるとは予想していなかった。
現代日本より遥かに基準が古いのだから至極当然の成り行きではあるのだが。
ぐっと男性器を握られ、声にならない悲鳴を上げそうになったところで、性病疑いなし、という軍医の声とともに圧迫から解放される。
かと思えば次は後ろを向いて四つん這いになれと命令される。
前の新兵たちの流れを見ていたので次に何が来るかは予想出来る。
覚悟を決めて軍医に尻を突き出す。
直後、文字通り衝撃がグラハムの体に走る。
肛門に木の棒を突っ込まれているのだ。
「痔及び同性性交の疑いなし、と」
後の時代で、俗にM検と呼ばれる検査なのだが、倉間をはじめ、今の世代の公務員なら確実に過去の遺物と化している検査だ。
まさか噂程度にしか聞いたことのないM検を生きてるうちに受けることになるなんて微塵も予想していなかっただけに、痛む尻を抑えながらグラハムは痛え、と1人ごちる。
痛みで語彙力が著しく低下してるな、と冷静に分析はできるものの、感想が「痛い」以外に言葉として出て来ない。
医務室を出て、あっちだという兵卒の声に従い、道なりに進む。
すると開けた場所に出た。
身体検査の次は被服交付。
「被服は少し大きめのものにしておけ。どうせ体はでかくなる」という助言を基に、各寸法毎に置かれた被服を片っ端から試着していく。
そして被服交付表とにらめっこしながら規定の員数だけ持って行き、補給士官から判を貰う。
すると、今着ている分を除いた被服類をその場で畳んで、その上に交付表を置いて、すぐ講堂に行くように指示される。
こうして、目まぐるしく軍人らしい見てくれに変身させられ、あっという間に入営式が執り行われる。
「お前たちは、栄えある王国民としての義務を果たすことを以って、王国に奉公することとなる!自らが国のために成せるべきことを今成す、ということを強く考えて兵役に服してもらいたい、以上!」
決まりきった定型文のような歓迎の辞を連隊長が述べ、簡素な入営式が終わる。
入営式が終わったかと思えば、今度は班員発表が行われる。
基準は分からないが、何かしらの振り分けでグラハムは第21営内班に配属された。
第21営内班の班長はコープランドという下士官らしく、笑顔でよろしくなと被服で両手がいっぱいになっている新兵たちににこやかに話しかける。
「いやあ、軍隊というものはもっと恐ろしいところだと思ってました」
営内班で各々簡単な自己紹介を終えたところで、すっかり騙されたようにオースティンと名乗った男が話す。
「おうおう、じゃあここで何年も飯食ってる俺はなんだ、化け物かなんかか?」
笑いながら煙草をふかすコープランドに滅相もありませんとオースティンが返す。
コープランドにつられて周りも笑い出す。
「何かあったら下士官室を訪ねてくれよ。まあ、明日から教育が始まる。明日に備えて今日は早く眠ってくれ。短い付き合いだが、みんなよろしくな」
にこにことコープランドが語りかけ、下士官寝室の方に消える。
周りは新生活に不安と期待を抱いているようだが、似たようなことは警察学校時代に経験済みだ。
大方何が起こるかはグラハムには予想が付いている。
むしろ入営式直後に何も無かった分だけ、警察学校よりマシかもしれない。
消灯と同時に「モーニングコール」が来るか、起床と同時に「目覚まし」がやって来るか、あるいは両方か。
そうこうしている内に、警衛の下手くそな消灯ラッパが営内に響く。
5秒経った。
10秒経った。
そして1分が経過し、5分経った。
「・・・・・・どうやら何もないらしいな」
一人安堵し、しかしそれでも当直の日の仮眠のように神経を研ぎ澄ませ眠りにつく。
明日は何が起こるかな。
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