9 高級品
週明けに早速小麦パンを売り出してみることにした。
名称は「高級パン」。
まずジェイムズが開店前に来て「いつもの」と言った。
退店間際に、目に止まった「高級パン」の字面と値段を見比べ、「やっぱり、高級パン1つ」とジェイムズが告げ、正式な売り上げ第一号となった。
ジェイムズにしては懐が寒くなるのではないかと心配したが、無事に昼に買いに来た。
「さぞ旨いんでしょうねえ」
と嫌味ったらしく、にやにやとした表情でグラハムの顔を見つめ、ジェイムズが店を出る。
それから、真剣な表情を浮かべ、ジェイムズが再び来店するまでに1分とかからなかった。
店の奥とカウンターで応対するグラハムを見比べながらはらはらとした表情でジェイムズが列に並ぶ。
いざ応対するやいなや、
「高級パンってなあ、あといくつ有るんだ?」
と聞いてくる。
何とも分かりやすい奴だと思いながら、まだあるよとグラハムは答える。
見てわかる程度にほっとした表情で、
「あと2つくれ」
とジェイムズは言う。
ジェイムズに限らず、どうやら出だしは好調らしい。
昼過ぎには、それまでに作っておいた分を上回る量を焼成する必要が出て来た。
「思ったより売れ行きがいいな」
生地を捏ねながらグラハムが呟く。
「本当に忙しくなりましたねえ」
生地を成形しながらロランが返す。
そこにロメオが配達から戻って来た。
随分遅かったなとグラハムが声を掛ける。
「納品のときに小麦パンを先方に推してみたんですが、あまり乗り気ではなかったです」
どうやら配達ついでに営業にも出ていたらしい。
「まあ、大麦より高いしな」
しかしグラハムは考える。
売れ行きがいいのは喜ばしいことだが、それより何より、安定した小麦の調達ルートの確保が先だ。
エドワードのところから仕入れた小麦の消費率が思ったより高い。
そのとき、誰かが店の戸を叩いた。
「・・・・・・エドワード?」
「実は相談があってな」
戸を開けると、帳簿を片手に持ったエドワードがそこに立っていた。
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