6 調達
かつて中世フランスではパンの値段が一定、材料費の変動に合わせて大きさを変えてたらしい。
昔、高校の世界史の授業中に教師が語ったこぼれ話を倉間は思い出す。
ほんの些細な話のはずなのに何故か頭の片隅に残っていた。
一方で、この世界は幸いなことに、ある程度自由経済という概念が入りつつあるらしい。
値段はどうやら商店主の一存で決められそうだ。
だからジェイムズのパンは少しだけ大きく、少しだけ値段が高いし、トマソン婦人のパンは少しだけ小さく、少しだけ安い。
そのため、ある程度工夫をして、ある程度値段を変動させてもお咎めはないはずだ。
そうと決まれば原料の仕入れだ。
幸いにも今日は休日だ。
1週間のうち、この日に労働することは神の怒りに触れるとして教会が禁じている。
ユダヤ教における安息日のようなものだろうかとグラハムは考えるが、ユダヤ教のそれほど強力な制約を設けてはいないようだ。
早速、懇意にしている農家のところに足を運ぶ。
目的地に着くと、家の裏手に周り、畑で汗を流す農夫にグラハムは声をかける。
農作業は安息日の労働に当てはまらないというのが教会の見解だ。
「どうしたグラハム。仕入れは月末だろう?繁盛して材料が切れたか?」
「いやあ残念ですがね、逆なんですよ」
グラハムの言葉に農夫、エドワードは訝しむ。
「ああ、安心してくださいよ、仕入れですから」
余計に怪訝な顔をするエドワードにグラハムは小麦の在庫を尋ねる。
その質問にエドワードは質問を返す。
「小麦パンなんて高級品、お前んとこで取り扱うわけ?」
尤もな疑問にグラハムは至極真面目にそのまさかです、と答える。
「小麦なあ・・・・・・この間教会と領主様んとこに納付したばっかだが・・・・・・」
エドワードの姿がサイロに消える。
待つこと5分。
エドワードがサイロから現れ、ちょっと来いと家に入るよう促す。
グラハムはエドワードに続く。
エドワードが棚から帳簿を取り出すと、しばらくにらめっこを続ける。
そして、きっかり3分ほど経ったところで口を開いた。
「どの位必要だ?」
「取り急ぎ100あれば」
それを聞いたエドワードは目を丸くしながら、しかしにこりとする。
「ちょうどさっと出せる分だ」
グラハムは前金を渡すと、早い段階で頼むと伝えた。
「ヒマだからな、明日には届けてやるさ」
とエドワードは気楽に答える。
これは幸いだ。
安息日とその翌日はグラハムのパン屋は定休日にしている。
手札は揃った。
意気揚々とした気分でグラハムは家路に着いた。
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