2 役所
「・・・・・・3月高校卒。同年4月巡査拝命。翌年4月沼川警察署地域課。で、2年後の8月に田ヶ原警察署刑事課盗犯係。そして1年2ヶ月後、殉職」
まるで役所の職員のような風貌をした受付の向こうにいる男は淡々と「倉間晴彦」の経歴を語る。
ふむ、と男が考え込む。
この間、倉間は数々の疑問が浮かんでは消えを繰り返していた。
「あの、ここ、どこですか?」
取り敢えずまずさしあたっての疑問をぶつけることにした。
「窓口です」
役人風の男が即答する。
「なんの、窓口ですか?」
「受付の窓口です」
まるで要領を得ないなと判断したところで倉間は質問を切り替えることにした。
「あの、俺は死んだんですか?」
「死にました」
手元の書類に目を通しながら興味なさげに男は答える。
「え、と、なんで死んだんですか?」
蘇った記憶のお陰でぼんやりとは把握できているものの、今一つ何が起きたのか分かっていない。
「下行大動脈損傷による失血死」
「なんでその、そんな大層な死に方を?」
「不審者の男が履いていた靴の、アイスピック状の仕込みナイフで動脈を一突きされて無事亡くなりました」
「無事っ・・・・・・?!」
随分人死に対して不謹慎な物言いをしてくれるなと少し憤りを感じる倉間をよそに、男は手元の書類を次から次へと流し見ていく。
「俺はなんでここにいるんですか?」
倉間が一番の疑問を投げかけて、そこからたっぷり30秒は待っただろうか。
役人風の男はある一枚の書類を片手にぴたりと手を止めた。
顔を上げ、倉間の目を見ると
「あなたにはこれから転生してもらいます」
と告げた。
男の言葉の意味が分からず一体何の話をしているんですかと聞き返そうとしたところで、役人風の男はまくし立てるように続ける。
「あなたの名前はこれからは「グラハム・ハリス」。あなたの世界で言うところの中世ヨーロッパに限りなく近い世界に生まれてもらいます」
状況が全く飲み込めず困惑する倉間にさらに男は続ける。
「あと、特例的にあなたには前世の記憶を引き継ぎ、尚且つ、市民階級の成人男性となったところから人生を開始してもらいます」
「もう一度最初から言ってくれ」
倉間の必死の要求がまるで聞こえていないかのように男は
「良かったですね。知識・技能付き。おまけに三歳ばかり若返れますよ」と続けた。
「おい、ちょっと待て!」
気が付くと倉間の目の前に小さな光の渦が、徐々に広がりながら迫る。
「せめてもう一度説明を・・・・・・!」
「行ってらっしゃいませ」
男は無情なまでに淡々と倉間に一方的に声をかける。
そして倉間の意識は、今度は光に飲まれ、再び消失した。
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