第3話 もしや私は囚われの身なのだろうか?

「おい貴様ら。私をこんなところに入れて何が目的だ?」


 硬質な鉄格子の向こう側で男ーーいや、ユリウスは真剣な目つきで問いを投げかける。


「いやいやお兄さん。流石にその手の職に就いている人を野放しにしておく訳にはいかないでしょ」


 警察官たちもどうしたものかという風に顔をしかめてユリウスを眺めている。


「先ほども言ったようだが私は急いでいるのだ。愛しのイザベルが……」


「あーはいはい、分かったから。暫くここで大人しくしてくれたら出してあげますからね」


 そう言い残すと警官たちはそそくさと牢屋が軒を連ねている廊下を去る。


 ユリウスは目の前に誰も居なくなったことを確認するとノールックで背後に話しかける。


「してご老人。私はここにどれくらい囚われる見込みなのだろうか?」


「ほお、お前さん。よくワシに気がついたな」


 声のする方向には干からびたようなシワシワの肌を持つ小さな老人が隅の方に座っていた。


「これでも人を見る目はあるつもりだ。あなたはそこそこ長い間この牢獄に囚われているのだろう?」


「いかにも。ワシはここに入れられてからもう10年になる。それで?お主が出られる時期に関してじゃったが」


「そうだ。私は急いで出なければならない。しかし、あのケイサツとかいう組織とも事を構える気はない。できれば穏便にいきたいところなのだが」


「ふむ。もし出してもらえるのを待つというなら短くとも40年はかかるぞ」


「なにっ、そんなにかかるのか」


 ユリウスは目眩がしそうだった。40年も経ってしまえばイザベルは……


「ババアになってしまうではないか」


 その一言と同時にユリウスはジイさんが相変わらず隅の方に居ることを確認し、両手を前に突き出し呪文の詠唱を始める。


「《熱くたぎる猛虎の牙よ・我が腕手かいなでに・その業炎を》喰らええっ必殺!ブレイジング・ファングゥ」


 ユリウスは刀剣の代わりに自らの腕に燃え盛る焔を纏わせ鉄格子を焼き切る算段だ。


 ユリウスが勢いよく地を踏みしめ、弾丸のような勢いで目標へと距離を詰める。


 そして、間合いに入った瞬間彼は両の腕を振り抜き自分を閉じこめていた鉄格子をクロスに切断した…………………………ハズだった。


 実際にはユリウスは勢いよく鉄格子にクロスチョップをかましているだけだった。


 ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。お寺でしか聞かないような鉄の震える音が廊下中に響く。



「うるせえぞ新入りぃ!」


「あ、どうもすみませんでしたm(._.)m」



 余りに自分の技が効いていないことに自分のキャラを忘れて敬語まで使う始末。


 その後、幾度となくユリウスは『ブレイジング・ファング』とやらを試したがどれも不発に終わり、その度に周りの囚人に謝罪した。


 そして彼はある結論に至った。



「もしや…………………………………………魔法が使えない……………………だとっ…………がくっ」



 この気絶がユリウスの牢での初めての睡眠であった。

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全てを失ったとしても勇者は勇者なのだろうか? 八冷 拯(やつめすくい) @tsukasa6741

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