第2話 私の経歴になにか不審な点は有るのだろうか?

「さあ、そこに座れ」


 警察官に促されるがままに男は部屋の中央にあるネズミ色の冷たい机に着く。


「ふむ、いささか殺風景だが頑丈そうな造りをしている部屋だな。ここは何という名の宿なのだ?」


「取調室だよ。あんたホント日本語ペラペラなのにこの国のこと全然知らないねぇ。まあいいけど」


 警察官は諦めた風に溜息をつき、机の引き出しから一枚の紙片を取り出す。


「じゃあお兄さん、今からいくつかの質問に答えてもらうからね」


「ほう、アンケートというやつか。寂れた集落が町おこしのためにするのだと思っていたがこんなところでも実施しているとは……感心だな」


「そりゃどうも。じゃあまずお兄さんの名前は?」


「なんと、やはりこの街には私の名を知らぬ者が居るのか……」


 男は顔をしかめながら少しもったいぶった調子で名乗り始める。


「我が名はユリウス・クレイトス・バルタザール7世。国王直属の魔王討伐隊隊長にして王妃イザベルのk……」


「分かった分かった。そこら辺はまた後で聞くからね。じゃあご職業は?」


「騎士と言えば聞こえはいいだろうが、まあ魔王専門の殺し屋をやっている」


「はい、アブナイ人っと。その魔王ってのはなんの隠語なのか後で吐いてもらうからね」


 黙々と調書を書き連ねていく警察官。依然として男の態度は堂々としたままだ。


「じゃあ次、ご住所は?」


「最近は旅をしているので野宿だが」


「住所不定ね」


 哀れそうな目で男を見やる警察官。


「ご両親はいらっしゃるのかな?」


「父は旅へ出たきり帰ってこないんだ。母は魔王の尖兵である飛龍から私を……庇って……死んだ」


 先ほどまで堂々と、傲慢とも取れるほど傍若無人に振舞っていた男がほろほろと涙を零し始めた。


「そうか……お袋さんはその飛龍って奴に殺されたんだな」


「いや、飛龍は人ならざるものだが?……まあいい」


「因みにお兄さん何か特技とかあるの?」


「私の得意技は『ブレイズ・ファング』だが」


「おお〜、何それ?」


「両手に握った刀に焔を纏わせて斬りつけるというものだが」


 これが決定打となり男はそのまま拘置所に連れて行かれることとなりましたとさ。

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