share-7 家路
週末にイヴを控えた金曜日。
食事を終えて店を出た時、空から静かに落ちる雪が二人を出迎えた。
「「わぁ」」
冷たい空気を纏った夜道、驚く彼と両手を伸ばした私。スノードームの中に閉じ込められたんじゃないかと思ってしまうほど、静かで緩やかな瞬間だった。
「今日じゃなくて、クリスマスに降ればいいのにね?」
「武田さんってロマンチストですね」
付き合うようになってから、この人の中に潜む甘い部分に触れてばかりの私。固い鎧の中は綿飴だとわかった。
「特別なことがじゃんじゃん起きたらいいな、と思って」
「そればっかり」
「そう?」
「そうですよ。明後日のお店もさっきやっと聞けたし、しかも有名なフレンチだし……」
付き合いだしてまだ一ヶ月ほどなのに武田さんは私に何でもしてくれるし、しようとする。
悪い気なんてしない、そりゃあ、かなり嬉しいのだけれど……。
「私は武田さんと過ごせればそれでいいんですよ?」
嘘なんかじゃない。
「玄関だって納戸だって、どこだって」
高いお店やプレゼントが、部屋での値引きチキンになったとしても。
「特別なことがなくたって、私は武田さんのことが――」
一番肝心な言葉は、近付いた彼の胸に溶けて消えた。
「そうだね。本当にそうだ」
「武田さんもそう……でしょ?」
「うん。俺にとっては、カナコちゃんとこうしてるだけで充分特別だった」
空から落ちるいくつもの白い雪が、彼の髪や肩に止まっては水滴に形を変える。私も同じなのだろう。私に回していた腕の力を弱めた彼は優しく微笑みながら私の頭や肩をそっと払った。
「早く帰ろう、カナコちゃんが風邪ひいたら大変だ」
「もう、私だけじゃないでしょ」
「はいはい」
みんなが待つ
彼は歩き出す前に私の手を取ったけれど、全身に広がってしまった甘い熱はそう簡単に引いてくれない。
手のひらだけじゃ足りなくなった私は、照れくさいのを飛び越えて彼の腕にしがみついた。
「……でも、カナコちゃんが喜ぶことはしたいんだ」
また甘い彼が顔を出す。
「だから、しょうがないと思って付き合って?」
二人に止まる雪は粉砂糖に変わるかもしれない。
「リクエスト随時受け付けます」
みんなの前は照れるから、まだまだ素っ気ない態度を取ってしまう。
でも、そっか。彼がそれで喜ぶならば。用意していたお願いは今してしまおう。
「カナコちゃん?」
私の願いを何でも聞いてくれるなら。
「クリスマス……」
「夜は二人で」
「
雪のないグリーンなクリスマスでも。
何も特別なことが起こらなくても。
あなたと一緒ならそれだけで幸せ。
――今年のクリスマスは破壊力抜群のピエロが照れるくらいの甘い夜を、二人で作りましょうね。
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