share-4 納戸
朝の光で部屋の色が変わる。
その日は、カーテンを開ける前から嬉しくなるくらいいい天気だった。
窓から注ぐ太陽の光は夏の頃より柔らかくて、目を細めるほどの眩しさはないけれど体を包み込むような優しさがある。
――駅までの道。駅からの道。
誘われるがまま外に出てみると、まるでスパイスを足すように、ひんやりした空気が傍に寄ってくる。
足元に運ばれる落ち葉は茶色ばかりでちっともカラフルじゃなかったけれど、わざと踏んでは音を鳴らした。
ハロウィンカラーからクリスマスカラーへ衣替えした街の景色。
オレンジ色のカボチャが置いてあった場所には緑色のツリーが並び、スノースプレーで象られていたオバケは雪の結晶や夜空を駆けるトナカイに変わった。
一晩で景色がガラッと変わる。
それはまるで、街中に魔法がかけられたみたいだった。
たくさんのツリーを見たからだろうか。クリスマスのムードに背中を押された気がする。
もしかしたら、誰かが私にも魔法をかけてくれたのかもしれない。
顔が上を向き、背筋が自然と伸びる。
特別なことは何も起きていない。でも何故か、内に向いていた気持ちがくるり方向を変えた気がした。
「カナコちゃん、何してるの?」
みんなまだ帰っていない日曜の夕方。
リビング横の納戸を漁っていると、帰宅した武田さんに声をかけられた。
「あ、ツリー出そうと思って」
「ツリー?あ、クリスマスツリー?」
「はい」
「鞠ちゃんに頼まれた?」
納戸の入口から覗いた彼は、からかうような悟ったような顔で聞いてくる。
「いえいえ!ただ、お散歩してたら感化されちゃって」
「そっか」
二人の笑い声がごくごく自然に重なった。
「手伝うよ」
彼は、棚の上に重ねてあるオーナメントの箱を取ろうとする私の後ろに立ち、代わりに手を伸ばした。
「ありがとうございます」
そんなつもりがなくたって、彼の肩に寄り掛かれるほど近くなった。
ギリギリ保った距離を飛び越えて、二人の香りが触れ合う。
彼の香りに全身が包まれてしまう前に、私は慌ててその空気を
「か、飾り付け!一緒にしませんか?!」
「ク、クリスマスツリーの」
「よ、良かったら……ですし」
「む、無理に……とは言わないですけど」
恥ずかしさを隠すために普段より勢いよく言葉が続く。きっと顔は真っ赤だろう。彼が後ろにいて良かったと思った。
「うん!よし、みんなを驚かせてやろう」
彼の楽しそうな声が背中に届く。私はただひたすら、頭をブンブンと縦に振った。
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