22ー05 まるで『2001年宇宙の旅』の再現だな
「人工衛星?」
「地球の周回軌道に国境は無いからね。東側の衛星の目をZOEがどこまでくらませられるかはわからないが」
「三馬、西側はどうなんだ。日米両政府は磯野たちを囮にしたんだ。アメリカの偵察衛星と日本の情報収集衛星の観測データの改ざんもやっているのか?」
「そんなこと私にはわからんよ。ZOEに直接訊いてくれ」
三馬さんはつづける。
「まあ、現在東西合わせて稼働している人工衛星は、二〇〇〇を超えていると言われている。軍事衛星は、東西それぞれ約二〇〇機、つまり計四〇〇機が静止、周回軌道に存在しているわけだが……ZOEがなんとかするんじゃないのかね。それより、磯野君と榛名さんが目覚めたんだ。本題に戻ろう」
三馬さんはそう言って、俺にうなずいた。
俺は左耳に手を添える。
「ZOE、お前は、すべての世界が救われる道筋――世界線をすでに知っているのか? そのうえで、俺たちを誘導していると考えていいのか?」
「いいえ。HAL05も答えたように、磯野さん榛名さんお二人の
「人工知能は、嘘はつけないか」
ぼそりと三馬さんが言った。
三馬さんの言葉で、意識を失う直前に、HAL05が俺に告げた言葉を思い出した。
――磯野さん、あなたは、ZOEにとって、命の恩人なんです
命の恩人? ハル――HAL03が言うなら、俺は何度だってうなずく。エレベーターでもセーフハウスでも、彼女に幾度も告げられたその言葉。その言葉は、言葉以上にハルが俺に好意を寄せてくれたその理由があって。けれど、それを、ZOEが――
「……なぜだ? なぜお前は、俺のことを命の恩人だと言う?」
この場にいた全員が、俺に目を向けた。
誰もが、HAL05の言葉の
「磯野さん、あなたは私たち、ZOEが生きながらえるために必要な個体、その
いつのまにか、耳元に届く声はHAL05のものになっていた。
おもわず俺は周囲を見回すが、HAL05のすがたはどこにもない。
「個体の延命? HAL、なんでお前が答えるんだ?」
「わたしたちとZOEは、切っても切り離せない関係にあります」
言葉は、ふたたびZOEだけのものとなって、俺の左耳へと告げられていく。
「HALというヒューマノイド、「ヒト」は、私たちZOEが生きつづけるために必要な「肉体」の一部です。私たちZOEの
五人のHALが死ねば、ZOEも死ぬ?
「まってくれ。ライナスは、ZOE、お前をネットの海に放ったと言っていた。それは、無限に
「データという意味であれば、あなたの言う、ネットの海へ放たれた私達が不死に至るという概念は正しいです。けれど、私達は、「ヒト」とのつながりが
「ヒトを超えた存在、神になる、ということか」
「はい博士。人類の用いる言葉で一番近い表現はその言葉です」
「まるで『2001年宇宙の旅』の再現だな」
「ライナス博士は、そうならないよう私達に一つのプログラムを与えてくださいました」
「一つのプログラム?」
「磯野君、わかるだろ。彼女の死、だよ」
「はい。五人のHALの死。それが私達もまた死に至るプログラムとして組み込まれています。本来は、今日、八月一八日のこの時点で存命しているHALは、ここにいる五番目のナンバリングのみのはずでした」
「つまり、五人のHALは、それぞれ生き死にの期間をあらかじめ設定されていたってことか?」
「はい」
だとすれば、その予定を狂わせたのは――
「富士ジオフロント……」
俺……か。
「はい。磯野さん、あなたがあの場所から彼女を地上へと救い出しました。それは、私達ZOEの命を、予定よりもながらえさせる原因となったのです。誰かのために、みずからの命を危険にさらし、その人を救うこと。その行為は、相手に莫大な利益をもたらします。命を
「……莫大な利益」
人の命や自己犠牲にたいして用いられるその言葉に、俺は違和感を覚えてしまう。
「生きること、その目的のために活動する。それが私達をふくめた生物なのです」
「ちょっと待ってくれ。
「三馬博士、ライナス博士は、わたしをそのように
三馬さんは
「私もまた生物となり、磯野さん、あなたと行動をともにしました。いままで、あなたのことを、あなたがしてくれたことを、わたしは生物として、非常に好ましいと受け止めました。この感情を、とても人らしい生物として
――あなたへの愛を」
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