19-04 わずかな時間だが、空の旅を楽しんでほしい
「ライナス、危険に備えるにしてもこんな飛行機を用意するくらいなら、チューブリニアを使った陸路のほうが安全ではないんですか?」
「陸路は、緊急事態宣言によって非常に動きづらい状態にある。空路を選択したのは、その時点で襲ってくるであろう敵をすくなくとも一つに絞れるからだ」
「その敵って」
「ソ連空軍だ」
ソ連空軍。
ミサイル攻撃の話が出た時点で、その名前が出てきてもおかしくはなかったはずなんだが、あらためて海外の軍隊という単語がライナスの口から出たことで、俺たちを取り巻く現在の事態が深刻であることを実感させた。
……ていうか、ソ連空軍ってなんだよ。エースコンバットじゃないんだぞ。
「ソ連空軍なんてものを相手にするよりも、チューブリニアを利用して、日本国内で済ませられる敵を相手にするほうが楽なんじゃないですか? CIAへの警戒や自衛隊も動き出しているなら、なおさら
「CIAとは話をつけてある。このあと札幌で君が行うことは、この世界にとっても重要なことだ。合衆国もそれは理解している。さらに、この飛行場は
「横田空域?」
「横田
ハルがそう言って、通信用の新しいイヤフォンを差し出してきた。
俺が受け取ると前の座席へと移動し、彼女は榛名と千葉にもイヤフォンを手渡した。二人にZOEとの通信に関する説明をしている。
「合衆国政府
そんな取り決めが日米間で行われているのか。
現実世界でも存在する取り決めなのだろうか。榛名の言葉を聞いたいまとなっては、その現実という言葉もあやふやなのだが。
「もし敵の戦闘機が接近したとしても、ZOEがNSA経由で在日米軍および日本の
アメリカとZOEの
榛名とともに誓った、この世界もまた救いたいという俺たちの想い。
けれど、あまりにも多くの脅威に囲まれた状況に、どうしてもしり込みしてしまう。
ビジネスジェットは滑走路へと移動し、ジェットエンジンの回転音がキーを上げていく。機体はゆっくりと滑り出し、加速していった。滑走路の両はしにある
八月七日の新東京駅の襲撃からはじまり、
高度が増して行くなか、ビジネスジェットの小さな窓をとおして、さっきまで俺たちを見下ろしていた天の川へと向かっていく。
八月七日、
それが、現実世界の歴史では、北海道の七夕として定められている。
そうだ、俺はこの事実と残り少ない時間のなかで、もうひとつの現実についても向き合わなければならない。
――榛名とともに帰る世界が、おなじ世界になるという望みがあるのだろうか。
もし違うのだとしたら、たどり着くのはどこになるのだろうか。
俺は、その世界――現実を、受け入れられるのか。
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