16-05 我々の目論見は露見してはならない
ソ連がいまだにある世界?
そんな世界に俺はいるのか。
なるほど、この世界が近未来的である
「KGB――ソ連
「ってことは、俺たちは八月七日にKGBに追われていたってことですか?」
「ええ、わたしを撃ったあのロシア系は、KGB諜報員です」
運転席からハルが答えた。
ハルを撃ち、追ってきたあの大男たちがKGB……。
俺は震え上がった。
ソ連のKGB。
八〇年代のスパイ映画でしか知らないが、だからこそ
いや、こっちにだってZOE、そしてハルがいる。けれど、
「合衆国側からのバックアップは、ほかにはないんですか?」
「我々はCIAと
ここでアメリカまで敵に回したら、計画どころか生き残ることすら
「このさきは一つの失敗も許されない。だからこそ、どんなに納得のいかない、理不尽な決断があっても、
――我々を
ライナスは、右手を差し出してきた。
一つの過ちがすべてを
最悪、ここにいる全員が命を落とす。そのうえで、この
俺は目を閉じて、この世界に来てから起きた出来事、知った事実、それをもう一度、心の中で
彼女の、わずかに不安げに見つめるその瞳に、俺はうなずき返した。そして、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、ライナスの手を握り返した。
八月一七日一二時三七分。横須賀米軍基地に到着した。
二台のSUVは正面ゲートを通り、
俺たちを迎えるように、二台の乗用車と数名のスーツの男、そして、車椅子の
「女の子?」
そこにいたのは、ロングスカートで
見覚えがあるなんてもんじゃない、俺は、彼女のことをよく知っている。
「……はじめまして、あなたが、磯野さんですね?」
彼女は、まるで
「お前は……いや、きみは、
――霧島……
「彼女は、この世界の霧島千葉さんです。お姉さんの霧島榛名さんとともに合衆国の保護下にあります」
いつのまにか、となりにいたハルが答えた。
「……合衆国の保護下」
「わたしの姉についてはご存知ですよね。となりにいるHALが、姉の遺伝子から作られたことも」
「ああ、三年前に交通事故にあったこともライナスから聞いた」
「わたしの足は、そのときの事故によるものです」
並行世界とはいっても、どの世界でも事故にあってしまうのは、彼女たち姉妹の運命なのかもしれない。……いや、簡単に運命などと言っていいものではないだろう。けれども、もし本当に運命なのだとしたら、それは、あまりにも理不尽だ。
「千葉……さん、きみはなぜ
「ライナス博士から
ライナスを見ると、彼は申し訳なさそうに俺を見た。
「イソノさんの世界のキリシマ・ハルナさんを救出するためだ。そのためには、まずイソノさん、もしくはチハさんによる彼女への
「霧島榛名への説得、ですか?」
「わたしは八月七日に、霧島榛名さんと一度接触しているんです」
さし挟んだハルの言葉に、俺は混乱した。
「八月七日に、榛名と会っている?」
「はい。あの日、プラットホームに磯野さんと霧島榛名さんが同時にいた時間帯が存在していました」
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