16-02 あのとき、わたしに言ってくれましたよね
彼女の
それは、やさしく、しかし強い
「……ハル、なぜ」
その言葉を
彼女の目は、まっすぐに、俺に向けられている。
その、思い詰めた
彼女は
世界のために、おのれを
そうだ、だからこそ俺は怒りをぶつけしまった。
さっき、二階のあの部屋で、ハルは、これまでのことに
彼女は
ZOEとライナスは、そのことをはじめから
――彼女を
ハルにしてみれば、俺に限界をみせてしまったことで、負わなくていいはずの負い目を感じてしまったんだ。だからいまも、彼女は、俺を止めようとしている。
俺は、彼女を
「……すまない」
俺は、ライナスをつかんでいた左手を、離した。
たましいが抜け落ちたような感覚に襲われ、その場でうつむいてしまう。すべてをぶつけられる
それでも、わかってはいても、この怒りという名の
どうしようもない。
行き場の無いこの怒りは、どこにぶつけることも出来ない。
「――
彼女の手を振りはらう。おのれが生み出してしまったどうにもならない理不尽に、この場所にいることに耐えきれなくなって、俺は、
逃げ出したんだ、俺は。
俺は、霧島榛名を救うための覚悟なんて、まったく出来ちゃいなかったんだ。三一日のあの夜、なにを犠牲にしても彼女を連れ戻すとおのれに言い聞かせていたはずなのに。
こんなときでさえ、右肩の痛みが思考をさまたげる。だが、その痛みこそが、己の
ラウンジから階段へ足をかけたとき、左手をつかまれた。
その手は、まるでテコの
――え?
いつのまにか、俺は、彼女に、
抱きしめられていた。
「ちがうんです、わたし、」
彼女は、涙を溜めた顔を俺に寄せた。
「あのとき、あなたが
――受けとめてくれたから――」
受けとめた?
「――受けとめてくれたから、わたしのこころは
あまりのことに、その言葉に、俺は固まってしまう。彼女の
「……俺の、おかげ?」
かろうじて出たおのれの言葉に、やっと我に返り、
――いや、ちがうだろう。
そう、否定した。
俺は、怒りまかせのまま、あんなことをしてしまったのに――
「ハルたちの覚悟を、
「磯野さん、あのとき、わたしに言ってくれましたよね」
彼女は俺を抱きしめたまま、耳元でささやく。
「あのとき?」
「あのエレベーターのときに言ってくれたあの言葉」
……エレベーターでの言葉?
――おまえは俺の命の
「――救い出す。いいか、わかったな」
ハルは、声色を真似て、俺の耳もとでそっと言い、それから恥ずかしそうに、笑った。
「ZOEは、わたしを、磯野さんの脱出の
ハルは、まるでキスでもするかのような距離で、俺を見つめた。
「磯野さんが助けに来てくれて、わたしを人間にしてもらえたから。あのとき壊れかけていたこころを、あなたが受け入れてくれたから、だから、いま、わたしは、
――ここにいられるんです。
そう言って、ハルは、もう一度、俺を抱きしめた。
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