09.彼女の理由 三馬によって世界の切り替わり日時の法則が明らかになった。そして「文字の浮かび上がり現象」の仕組みについての推測をはじめる。
09-01 とても疲れそうですね
シュレーディンガーの猫?
SFものの
「箱の中で、猫が生きている状態と死んでいる状態が50%ずつある状態のことですよね? ちゃんとした意味はわかってはいませんが」
「それで正しいよ。シュレーディンガーの猫は、コペンハーゲン
え、簡単なのか? よくわからん。
「その猫は死んじゃったんですか?」
不安そうなちばちゃんに
「大丈夫。これはただの
「そうなんですね」
ちばちゃんの顔はパッと明るくなった。かわいい。
「観測されていないあいだは、生きている状態と死んだ状態の両方が重なり合っている、だがそれはおかしい。しかしミクロの世界ではそれが起こってしまう。だから
三馬さんは、もう一度大学ノートを見る。
「この大学ノートで起こっている、重なり合いのようなことは、マクロな世界、我々が目で見て確認できるような大きさの世界では起こることは
「あの……人力って、俺のことですか?」
「その通りだ」
「とても疲れそうですね」
「そんなことは無い。
三馬さんは書き込みの最後のページを指で挟みながらとじて、残りのページの
「これ以降、大学ノートの書き込みは
俺たちは
大学ノートはいつの間にか大半のページが文字で埋め尽くされていた。
「
三馬さんはうなずく。
「大学ノートに書き始めた八月九日から十四日までの間に、フィボナッチ数列的に
「加速的に増殖って、そもそも俺が増殖しているってどういうことなんですか?」
三馬さんは大学ノートをテーブルに置いて、俺たちにページをめくってみせた。
「この世界をゲームだと考えてみよう。ゲームには
三馬さんは立ち上がり、部室のホワイトボードにペンでYの字に
「現実世界に戻ってみよう。選択肢はゲームとは違って無数に存在する。いま私が息を吐く、窓の外に止まるスズメが羽ばたく、柳井がくしゃみを我慢する、もしくはくしゃみをし損ねる、とかね。そう、この瞬間にも世界中に選択肢がある。そして、原子や分子、素粒子レベルでも一瞬ごとに選択肢がある」
ホワイトボードに描かれたYの字の分岐が何本にも増やされていく。
「つまりだ、一瞬ごとに無限に近い選択肢と、その先に分岐した世界がまた無限に近い数だけ存在することになる。この考え方を、
三馬さんはそう言って
「今回、磯野君が大学ノートを手に入れ、最初の文章を書き込んだ瞬間、この時点で無限に近い磯野君が、
――この大学ノートに書き込むという分岐を選択し、それが
書き込んだ
三馬さんは大学ノートの最初のページをひらいて見せて、その中の書き込みを指差した。
「ところが時間の
ホワイトボードに書いた「こんにちは」を三馬さんは何度も上から重ねて書く。「こんにちは」という文字は書き重ねられ太くなる。
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