08-02 このバッファはなんとも焦れったいな
ノートには、もう一人の磯野がオカ研メンバーと情報共有、そして、オカ研磯野への大学ノートの
この数ページからわかったことのなかで、特に重要なのは、八月十一日の入れ替わり時間がほぼ正確に確認できたことだろう。その前が九日の十九時あたりだったよな。で、今回が十三日の朝の八時。
俺がノートを読み終わるのを
「この実験で、磯野が
柳井さんは重い息を吐いた。
榛名も「
頑張っちゃった?
……あ、あーそういうことか。
「一日でサークル旅行の
「うん。僕も怜があんなに行動力があるのには驚いたよ」
「……こっちでもあいかわらずだな」
「すごく行きたがってたんだね、旅行。けど、ああいうところは可愛いと思うなあ」
と、千尋の
……だったのだが、俺を含めた三人は目を丸くした。
榛名が千尋の肩に手を置く。
「竹内、いま千代田のことなんて言った?」
「可愛いって言ったけど……それがどうしたの?」
「いやあ……竹内にしてはその、意外だなあ……って」
わかるぞ榛名。
あの
高校以来、そんな
これもまた、一つの
「なんだい? みんな」
千尋は、はてなマークをつけて俺たちを見た。
そのまま榛名と目が合うと「榛名も可愛いよ」とさわやかな笑顔を見せた。
千尋、それ取ってつけただろ!
取ってつけただけだろ!
だが――
「ひやあ!」
榛名は、砂浜で見せたのと同じように、両手で頬を挟んで
なにこのシチュエーション。
まるでボーイッシュの女の子が、黒髪ロングの美女をあざやかに
やっとのことで気持ちを落ち着かせた榛名は、今度は両手を千尋の肩に置いて言った。
「竹内、すごくキュンときた! すごくキュンときたけど、そういう言葉は本気で好きになった子にだけ使え」
「え、けど榛名、可愛いよ」
「…………!」
榛名は、千尋の両肩に手を置いたまま、うつむいた。わずかのあと、無理やり上げたその顔は、まるではじめて告白された女子中学生のように真っ赤に染まっていた。
「……ごめん竹内。いまのは本気で
「はーい」
竹内千尋は、理解したのかわからないが、いつもの通り、
その
それを見て、なんとも言えない顔をしていた柳井さんが我に返る。
「……話を戻そう。磯野側の話を聞きたいんだが、その前に三馬に会った直後に入れ替わりがあったってことは、こっちでした実験が三馬に伝わっているってことか」
「そうですね。いまごろ三馬さんに伝わっていると思います。それと、むこうの柳井さんと千尋も含めて打ち合わせているので、今日の午後にはちばちゃんに、大学ノートに関するなにかしらのアプローチができるかと」
「うまくいっていれば、一気に前進するな」
前進という言葉に、昨晩の柳井さんの顔が思い浮かんだ。
「……前進ですね」
「どうした?」
「あ、いえ、なんでもないです」
そうだよ。前進しているんだ。
しかも、映研世界でちばちゃんの大学ノートのことがわかれば、霧島榛名の過去もわかるはずなんだ。「色の薄い世界」へ入るヒントだって書かれているかもしれない。
「ただ、その結果を俺たちが知れるには、少なくとも二日は待つことになる」
「柳井さん、もしかしたら入れ替わり時間がまた延びる可能性も」
「たしかに、そうだな」
柳井さんは「このバッファはなんとも
「じゃあ磯野の二日間について訊こう。映研世界ではなにがあった?」
俺は映研世界での十一日から十三日までについてかいつまんで話した。
映研側でのノートの用意。
柳井さんと竹内千尋へのカミングアウトと協力体制の確立。
三馬さんの巻き込み。
そして、昨日十二日夜の、色の薄い世界への再侵入。
映研世界の霧島榛名との接触はについては、
「順調みたいじゃないか。時空のおっさん的存在と、そっちのちばちゃんが榛名を探していた可能性があるっていうのが、やはり気になるところだな。榛名はどう思う?」
「たしかに全部わたしの入部してるサークルだな。けど、わたしはその大学ノートについては知らないぞ。知ってたらすぐにみんなに相談するだろうし」
嘘を言っているようには見えない。
「けど、そっちの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます