06-07 いやあ、すみません
そして十分ののち湖岸へと到着した。
湖岸には、俺たち映研のほかにもホテルの
しかし、俺たちが着いたころにはすでに花火は終わり、ぞろぞろとホテルへ帰りはじめていた。
俺たちを待っていた映研メンバーは、それぞれグループにわかれて盛り上がっていた。柳井・千尋コンビは、
「あ、千代田さん、磯野さん」
青葉綾乃が声をかけて
「なんだおまえら、もう花火終わってるぞ」と柳井さん。
「いやあ、すみません」
「で、千代田さん、どうだったんですか?」
ニヤニヤ顔で怜に問いかける青葉綾乃。
あからさまに聞こえるように言うんじゃねえ。
「どう……って、なにもないよ?」
なにもないよって……。
あーポーカーフェイスができないんだったな、こいつは。
だが、なにもなかったのは事実だ。
「そーですかー」
にやけ顔のままの青葉綾乃。
怜の反応を見れば、そういう顔になるのは仕方がない。
同じ立場だったら、俺もにやける自信がある。
「わあ、きれい」
怜は湖岸の
遠くに見える青白い空と温泉街の無数の光。そして、その光が湖に反射されてキラキラと輝いていた。
これは花火が終わっても
俺も怜のとなりで眺めても不自然にはならないのだろうが、さっきの件もあってちょっと気が引けてしまう。
仕方なく昼に腰かけていたベンチへふたたび
女子高生組はさておき、映研メンバーとは今年で二年目の夏か。
大学はあと残り二年だが、こんな空気を味わうのもそんなに長くないんだろうな。今朝がたはバイト代がどうとか文句が出そうだったが、いまはそんな気持ちは
そんなことを考えながらも、自然と怜のうしろ姿に目がいってしまう。
ただ恋心というには少し違和感がある。だって俺たちは二年間、お互いにサークルメンバーの一人とか、友達とかそんな距離感だったはずなんだ。思いかえすにその居心地は、俺にとって悪くなかった。
それがさっきの出来事をきっかけとして、二人の距離にお互い踏み込んでいくとしたら、いままであった居心地というやつがなんだか
と、俺の視線に気づいたのか、千代田怜は俺のほうへ振りかえると軽く微笑んでみせた。
綺麗だ。
彼女は、湖へと顔を戻す。
なんだろう。今夜はもうなにも考えずに休んだほうがいいのかもしれない。
だいだいいま抱える懸案事項――大学ノートや柳井さんへの相談、ちばちゃんとの二人きりの接触、このどれもがまったく手つかずの状態なんだ。
とはいえ、この
ここ数日、気が張りっぱなしだったんだ。今夜くらい
翌日。八月十二日 午前七時過ぎ。
竹内千尋に起こされあたりを見まわすに、昨日と同じ旅館だと確認。
つまり一日を過ぎても入れ替わりは起こらなかったってことだ。これまでは、ほぼ一日弱だったよな。入れ替わりの
毎回同じ時間ピッタリに入れ替わるわけではないのはわかる。が、入れ替わり時間のズレは、俺、もしくは「もう一人の俺」が「なにかをする」ことによって生じるものなのだろうか。
ただいまのところは
旅館の人がやってくれるであろうに、
「磯野、準備できたら朝ご飯までのあいだに台詞確認しといてね」
台詞?
そうだよ! 撮影旅行なんだから
俺は台本をパラパラとめくり自分の台詞を確認する。
「なあ千尋、そういえば妹役って、演研のあの子連れてきてないよな?」
「あれ? 聞いてなかった? ちばちゃんだよ」
え? 青葉綾乃ではなく?
たしかに台本のキャラのイメージ的にはおとなしい女の子で合ってはいるが……。おとなしいのと、おとなしいキャラを
しかし、ここでなぜ青葉綾乃じゃないのかとか、そもそも演劇研究会のあの……名前忘れた。ともかく、
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