第2話 告白は突発イベント
「なぁ、なぁなぁ。なーぁ。告白されたのかよ。ほんとに? ほんとかよ。」大柄の体に短い髪をしているがきている服装と声の表情から女だと思われる彼は横を歩く少し背の高い男をずっと質問攻めにしていた。
「なぁ、なぁ。なーってば!
「あー! もううるせぇな!
「知ってるってことはされたことはホントなんだな!」
「あ……。おっ前なぁどこで聞いたんだよほんっと。」
「そりゃ相手が相手だからそんなことになってりゃ人の口に乗らないわけがねーだろ。なんせあの
「そうだな。ラッキーだったな俺たち。」
「同じはずの制服のランクが一つ上のように見えるくらいな上質の容姿とおしとやかさの
「ああ。その錦木綾香だ。」
「つやっつやのてかってかの黒髪ロングとすべっすべのもっちもち白肌で黄金比率体型のあのシルキー錦木綾香だぞ?」
「シルキー? まぁ、そうだな。」
「恋愛に関しても恋の撃墜王って言われてて振った男女はそれこそ千じゃ足りないって言われてるほどだぞ!」
「撃墜王ってお前なぁ。そりゃひでぇぞ。って。ん? お前なんかおかしなこと言ってねーか?」
「そんな雲の高みのそのまた向こうにあるまさに太陽みたいな奴が」
「なんだってこんなランキング真ん中中央やや低めみたいなお前に告白してんだよ。」緋羽グーンと手を伸ばして彼女の高さをそして表してから、急降下させ腰ほどの位置で止めてお前はここと示すように左右に振った。
「知らねぇよ。」
「なぁ、なぁ、オッケーしたのか? もうしたのか? なぁ」
「うるせぇ! 女のお前には関係ねぇだろうが!」
「なんでだよ! 答えねぇならもういい!!」緋羽はぷいっとあっちを向くと走っていった。
「あ、おい!」
喧嘩別れしたようだ。
「この二人にあの薬がかかっちゃったみたいだけど。なにも変化ないみたいね。でも、一応追跡タグをつけときましょ。」
「なにしてるんですかぁ?」
「ひぅ!?」フディオは背後から突然かけられた声に背を強ばらせる。
「驚きすぎですよぉ。ああ、観測してたんですか。」
「なんだ、ノマル。あんただったの。」フディオの背に声をかけたのは同僚のノマルだった。
「あんたはひどいですよ。で、何見てたんです?」彼女は肩より先に延びた髪をくるりと指に巻きながら尋ねる。この癖のおかげで彼女の髪は右だけ内巻にくせづいてしまっていた。
「んー。ちょっとね。気になる二人がいてそれでね。」
「勝手に恋のキューピッドはやっちゃいけないんですよ?前もそれで怒られてましたよね?」
「やっちゃないわよ。やっちゃ。前の時それでこっぴどく怒られてんだから。」
「それ、何度目でしたっけ?」
「数えられてるわけないでしょ。」
「今のこれもそうですよね? いや、違う。これは、なんか変なことした後でしょ。」
「い!? そ、そそそんなことあるないわよ。」
「知ってます。フディオさんって悪いことしたなーって思ってるときって露骨に肝っ玉が小さくなるというかおどおどするんですよ。いっつもあなたを見てるから私わかるんです。」ノマルは微笑みながらいじわるを言う。
「ででで、な、何の用なのよあんた。」
「いえ、用という用はなく。さっきも言ったでしょ? 妙におどおどしてるからなんかまたしたのかなーって思って。さっきフロハさんのところに書類持っていくように言われてましたけどもそこでなにかしたんですか?」
「んにゃにも。」フディオは口がまめらず噛み続ける。
「したんですね。」ジロッと睨み付けてノマルが言う。
「う。」
「しましたね。」子を叱るようにノマルは言う。
「はい。実は……」フディオはノマルに事の全てを吐かざるを得なかった。
――。
「なるほど、フロハさんが作ってた薬がトンでもないドン引きものだったから無茶苦茶にしてたらフロハさんが帰ってきそうだったから捨てた。のだけども、その薬がどうなったか変なことを起こしてないか気になってみていたと。」
「はい。」シュンと小さく体を丸めてフディオは小さく肯定する。
「で、この二人だったんですか。なにか変化は?」
「いや、まだ何も。でも時間差ってこともあるから継続観察してるの。」
そういってフディオたちが視線をモニターに落とすと、緋羽と呼ばれていた彼女は寝床に横になっていた。女っ気のかけらもなく色気もない室内で、機能があればそれでよいの布団の寝床で横になっていた。
「ちぇ。なんでだよあいつ。告白されたかくらいこたえてくれてもいいじゃんかよ。なんでだよ。男じゃないとわからない答えられない理由でもあるのかよ。」緋羽は猩丸との話を反芻していく。そして、思う。
「けど、ほんとに錦木に告白されたのか。あいつ。」
「錦木、錦木がなぁ。ほんとなんでだよ。あいつがあいつに。あいつ。」緋羽は錦木の容姿を思い浮かべる。長い黒髪にすらっとした容姿。出るとこへこむところのメリハリがついた無駄の無い体。整った顔立ちは太い眉が少し目立つが、人懐こさを感じる子犬か子猫のような笑い方とパチッとした目元がとても魅力的。そんな理想郷の住人のような少女が錦木綾香だった。
対して彼女は。
緋羽はガバッと起き上がると携帯のカメラを使って自分の容姿を見てみる。長いといろいろ面倒そうだからと短くしている上に天然パーマのクセっ毛で、もはや獅子のたてがみと言われることもある髪にそれが表すような粗雑で荒っぽい性格。笑うと牙のようにむき出してくる八重歯が光る肉食獣然とした気の強さの現れた顔。
「髪、伸ばしてみるかな。いや、容姿だけじゃねーもんな。あいつとの違い。あいつ、頭いいもんな。」
かたや下から数えたほうがはるかに楽な頭の中身しかない自分。と何から何まで自分と真逆の属性の塊、鏡の向こうと思えるような相手からの告白だったらしいのだ。気にするなというほうが無理というものだろう。
「あやー。しっかしいるもんなのね。こんな人間。ほんと嘘みたい。しかしこのヒワちゃんだっけ? 相手が悪すぎるわねぇ。」フディオは非の打ち所のない錦木のデータに感嘆の言葉を述べた。
「ですけど。この娘も悪くないですよ。というより上の方でしょ。ええ……。うん、いいですよ。いい。すごく。なのになんでこんなこと考えてるんですかね?」ノマルは緋羽のデータを眺めつつ無意識に舌を唇に這わせていた。
「そりゃ自分の価値は自分じゃわからないんじゃない?」
「で、そんな完全無欠聖少女に見初められただけでなくこんな愛らしい少女を困らせる色男はどんな奴なんでしょ。」ノマルは相手に興味を示す。
「パッと見た感じあんまさえない感じよ。えっと、ショウマルとか呼ばれてたっけ。」モニターを猩丸のほうに切り替える。
「あらあら、こっちも似た者同士というか同じように宙をにらんでるわねぇ。」
深山猩丸は帰宅後飯も風呂も上の空。家族に体調を心配されるほどに上の空。初めての告白にどうすればいいのかよくわからない。今までにないくらいに彼は今混乱している。
「うやむやには、出来ねぇよなぁ。」
しかし結論は早く出した方がよさそうであることも感じている。敵対していない他人から好意を向けられるのは悪い気はしない。それに慣れてもいる。
「でもなぁ……。」
でも、今回向けられた好意は明らかに違うように感じた。今までに感じたことのない感覚。彼のサバを読んでも二十に満たない人生ではそれを何だと断定することがまだできなかった。
「誰かに相談……ってもなぁ。学校の知り合いじゃぁなぁ。内容がなぁ。かといって中学の知り合いってのも遠いしなぁ。真面目に相談に乗ってくれそうにねぇし。」
「一番頼りになる相手が悩みの種になってるしなぁ。」かけようかかけまいかで緋羽の番号が出たままになっている携帯の画面をのぞき込む。
「ほかには……、うーん。こいつならまぁ、でもなぁ……。恥ずかしいし」
困惑した頭にまどろみが乗り彼は眠りに落ちていった。
「なんか、ほんとはっきりしないというかぼんやりしてるというか。うじうじしてるというか。なんでこんなのがこんなうらやましいことになってるんです? もしかしてあなたがまき散らした薬の影響ってこれじゃないですか?」ノマルは眉間にしわを寄せて言う。
「ええ!? いや、そんなことは、ないわよ!」
「ほんとにぃ?」
「ないです。」
「ほんと?」
「ないんじゃないかな。あると思ってはいません。」
「ほんとは?」
「…………」
「ほんとは!?」
「わかりません。」
「素直でよろしいことです。」
「でも、でもね。ベースになってる薬効からするとたぶん違うと思うの。これは多分、必然というかそのたぶん私がなんかする前から発生してたというか進行してたシーケンスだと思うの。ねぇそう感じない?。」フディオはわたわたと手を振り弁解する
「ベースの薬効聞く限りそうかもしれませんね。」ノマルの一言にフディオの表情はぱぁと明るくなる。
「でも、だとしたらその薬で何が起きるというのでしょうね。心配です。世界が持てばよいのですけど。」その一言にフディオの笑顔は急転直下に曇る。
「まぁ、起きた場合は私もお手伝いいたします。(ああ、この感情の浮き波の激しさ。たまらないですねぇ。)」そっと助け船を出して万が一にでも嫌われないようにフォローしておくことも忘れない。
「それじゃ、私は私の業務に戻りますね。何か進展あったら教えてください。あ、それと。」ノマルは、ドカンと一塊の書類をフディオの机の上に置く。
「前に頼まれていた心理と遷移に関する資料一式です。」
「へ? 何だってこんな量? さっきたまたま見てたらって。え?」
「あれ、嘘です。」ノマルは言葉からはありえないほどににっかりとまぶしい笑顔をフディオに向ける。
「これが目的なんです。だってあなたが取りに来られないんですもの。なものでずーっと見つけてはまとめてたのですけど置く場所がついになくなったので私から。あとで感想を聞きに来るのでちゃんと読んでくださいね。」
「う、ゔぇゑゐぃす……。」
辞書より厚い書類へ、フディオは辟易とした死に魚の目を落とす。長々と。長々と目を落とす……。落とす。ページをめくる音が時計のようにただただ時間を刻んでいった。
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