第9話

この一件以来、私はエイジの視線を感じる事が多くなった。時々目が合っても彼は以前のように笑う事はせず、すぐに視線を逸らした。

育ちゃんと三人でいる時は何も変わらない。彼は表面的には普通通りにしていたが、明らかに私に何か話しかけようとして、ためらっているようだった。

 そうして数日が立ち、私はある放課後、エイジに図書管理室へ呼び出された。

 開口一番エイジが言った。

「育って何か隠してないか」

 心臓をわしずかみにされた気がした。

「ないよ。そんなわけないじゃない」

「何焦ってるんだよ。本人じゃないんだからそんな事わからないだろ」

「十子だって気付いてたんだろ」

「何を」

「育が何か隠してるって事だよ」

 何か。

「いいよ。わかってる。俺達に何か隠してるよな、あいつ」

 何かどころじゃない。

 私はつい声を荒げた。

「違う」

「違うって何が」

「そんなの、ないよ。絶対に」

エイジは私を見ると、ふっと笑った。

「信じてるんだな」

 違う。

「育のこと」

 信じているのではなく、知っているのだ。

 あの、

 中川君の写真を見た時から。

エイジが私を見ている。

 私を。

 なんでそんなめでみるの。

 そう思った瞬間、

 涙がこぼれた。

 エイジがそっとこちらに近付く。

「十子」

 私の右手首を掴む。

大きく、力強い、

あたたかな手。

私は反射的にふりほどくと、駆け出して図書館を出た。

校門を出てからもしばらく走った。

ただ、泣きながら、走っていた。


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