第4話
それから一週間がまたたく間に過ぎた。
春の穏やかな一日。窓から見える草木が日毎に青々と色づいてゆく。
私と育ちゃんは教室で英語の宿題をしていた。実際には育ちゃんが私の宿題を写していたのでこちらは何もしていなかったのだけれど。
私の隣に座り、育ちゃんは分からなかった和訳をノートにしたためている。その間私はひたすら彼の真剣な横顔を見つめていた。
真剣になると格別だ。
思わずうふふ、と笑みがこぼれそうになる。いや、実際微笑んでいたかもしれない。
ふと視線に気付くと、唐沢エイジが離れた席からこちらを見ていた。
やがて彼は立ち上がり、こちら側の席までやって来た。精悍な顔が私、そして育ちゃんを見る。育ちゃんは宿題にかかりきりで彼を見ようともしない。
「ふうん」
唐沢エイジは育ちゃんをじろじろ見下ろして、言った。
「育チャン」
私は何となくむっとして彼をにらみつけた。
彼はにやにや笑うだけで、こちらの視線を全く気にしていない。
「うん? 」
育ちゃんはそこで初めてノートから顔をあげた。唐沢エイジを見上げる。彼も強気な眼差しを育ちゃんに向けた。普通なら思わずひるんでしまいそうな強い視線。
育ちゃんはその視線を真正面にとらえた。
瞳が少し大きくなった、気がした。
二重の綺麗な薄茶色の瞳が、切れ長の漆黒の瞳をとらえて、
とらえたまま。
そらさない。
沈黙が、少し長すぎる気がした。
私が声をかけようとする前に、育ちゃんが静かに口を開いた。真剣な表情のままで。
「・・・何」
唐沢エイジの方から目をそらした。
右手で首の後ろ辺りをかいている。
「いや、あー、・・・数学の宿題を教えてもらおうと思って」
育ちゃんはまだ彼を見ている。
私は何だかむかむかしてきた。
「あの、今私達英語やってて忙しいから。後にしてくれない? 」
育ちゃんはそこでふと我に返ったように、机に向かって猛然と宿題の続きをし始めた。
唐沢エイジはそんな育ちゃんと、私を交互に見つめ、
「ふうん。そうみたいだな。後で聞くよ」
と言うと去り際に、にやりと笑って育ちゃんをあごで指した。
勝気な笑いがこう言っているような、気がした。
「やるね」
と。
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