四辻
お前に会うためだったのか
いま俺は四辻の角に立っている
見知った顔へ声をかけては
返事がないことに落胆するが
まあ幽霊なのだから、そうなんだろう
むしろ見えていたら危ないのでは、そう俺は思っていた
ある日、看取ってくれた人が通った
名を呼ぶか呼ばぬか少し悩む
その間に四辻を過ぎてしまったけれども
はて、あの人はこの四辻を通る人だったろうか
しばし考えてやめた
漠然とした不安が透明な身体を疼かせる
次の日に、また通った
幽霊だし、見えるものも今までいなかったのだから
意を決して名を呼んだ
目的もないけれども、でも目的がほしいようで
こんなにも弱いとは思わなんだ
「――――」
風の音に乗せて名を呼んだ
そういえば生前はふざけてまともに名を呼ばなんだ
それが可笑しくて少し頬が上がる
して、振り向かれた
目があった
驚いたように彼人が口を開けて俺の名を呼ぼうとする
同時に縺れ足で駆けてくる
転びそうになったのを受け止めるために手を広げるが
ああ、そうだ幽霊だった
すり抜け転倒する君を見下ろしながら
自分の人差し指を口元に
もしかしたらお前を連れて行ってしまうかもしれない
名を、呼ばないでくれ
でも、俺のいない所で名を呼んでくれ
いつでもお前の心の中にいよう
俺も名を呼んでいるから
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