第14話 検索
仲村達は地球防衛軍の基地で幾つものモニターに囲まれていた。ただ、全てのモニターに映し出されていた物は侵略者の宇宙船や怪獣では無く、数値や単語の文字列がスクロールしているだけだった。地球防衛軍の基地とは仲村のイメージだ。羽間から404: File Not Foundと言うサイトとその後の信じがたい異変の話しを聞いた古林は更に奧の部屋へ仲村達を招いた。この部屋へ通されたのは仲村も初めてだった。
病院で見るようなスチール製のスライドドア開けるとそこにはおよそ九十九屋の外見や内装からは想像できないようなコンピュータルームが現れた。学校の教室位の広さの部屋に窓は無く、右の壁一面にブレードサーバーが設置され、チカチカとパイロットランプをパチンコ店のネオンみたいに点滅させていた。もう左側には壁に沿って長さが三メートル程ある机の上にはモニターが五、六台とキーボードが数台、仲村が使い方を想像できない様な機器が所狭しと並べられ、あらゆる所でうるさい程ランプが点滅している。残った壁には天井まで届く棚が備え
付けられ、専門書や古いアプリのパッケージ、パソコンの筐体がずらりと棚中を埋め尽くしていた。そこには仲村も家電量販店で見かけた事のある最新型の筐体も数台混じっていた。この棚は古林のコレクション用らしく古いものから最新型まで整然と並んでいた。
仲村は驚くより呆れていた。特撮番組のセットが古林の所に有るとは。しかも実際の撮影現場のセットよりはるかにうるさい。部屋中から何十台ものヘアドライヤーを使っているような騒音がしている。素人目にも個人でこれだけのシステムを揃えている事は不思議を通り越して不審の域に達している。古林はこの秘密基地みたいな所で何をしているのかと訝しむ仲村を余所に古林は羽間を自分の席の隣に座らせた。
「404: File Not Foundとはインターネットでサイトにアクセスする際にファイルが無いとプロトコルが返すステータスコードだ。つまりクライアントが要求したデータが見つけられないか、要求に応答できないと言う意味だ」
「要するにサイトが見つからないって事だろう」仲村が言葉をはさむ。
「この場合サイト名が404: File Not Foundだ。検索をかけると五十九万五千件がヒットする。さらに絞ってサイトに404: File Not Foundと名付けているオカルト系サイトを検索した。今度は何もヒットしない」
「他に何かキーワードみたいな物は?」古林は羽間に問い質した。
「ハナコ・・・カタカナでハナコの文字があった」さらに古林は条件を絞り込み検索を続け、サイトを五十件位までに絞り込んだ。古林は一気にリストに上がったサイトのトップページを開いた。それを羽間は一件、一件見ていった。時間が長く感じられる。仲村は焦れて羽間に催促する。
「どうだ。あったのか?」羽間は静かに頭を横に振った。
「これは自慢だが俺の組んだ検索システムで引っかからないサイトは無いはずだが・・・アンダーグランドなサイトまで問題無く検索できるんだぜ」と言うと古林は残念そうに眉間に皺を寄せる。
「トップページには404: File Not Foundとハナコヨンマルヨンタイトルがある。その下に鳥居があり隣に黄色い学童帽を被った赤いスカートの女の子がお辞儀をしている絵があった。クルクル回る花の絵もあった」
「偶々繋がらないだけなのか?羽間のパソコンを調べないと何ともいえない。手掛かりが残っているはずだ。兎に角、そのサイトを見つけなければ状況に進展は無いな」と古林は仲村の方を見た。
仲村は自分の迂闊さを悔いていた。何故、例のノートパソコンを持って来なかったんだろう。羽間の言うサイト、ハナコヨンマルヨンにアクセスしてから異変が起こり始めた。それは事実なのか。それとも羽間の幻想か。羽間は嘘をつけない。信じがたいが事実として受け入れないと古林が言うように進展は無い。しかし、信じがたい。羽間や古林は目の前の状況がどんなことであれ全て受け入れてみる。そこが俺と違うと所だ。
「出来るだけ早く持って来るよ。良いな、羽間」仲村はパソコンを古林に預けて良いかと羽間に同意を求める。羽間は首を縦に振る。古林は黙って羽間を見つめていた。
「それから、これに目を通しておいてくれ今度の番組構成だ」と言うと古林に羽間が集めたレポートとUSBメモリーが入っている角一の茶封筒を手渡した。古林も仲村と同じで紙メディアを好む為、仲村はいつもプリントとバックアップ用にUSBメモリーを同封していた。
古林は封筒を渡されるなり書類の確認を始める。仲村はどんな時でも自分の仕事は忘れなかった。じゃあ、帰ると言い残し背を向けた仲村を古林が呼び止めた。
「これ、打ち合わせの内容と違う。新しいテーマに変えたのか?」
仲村は「ああ、そうだ」と上の空で生返事すると九十九屋を後にした。
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