丘に向かう集団の幽霊

被災地の霊現象は様々あるが、

代表的なものを挙げるとすれば


・ 夜になると大勢の人たちが走る足音、逃げ惑う声が聞こえる。


・ 夏なのに仮設住宅では、夜な夜な「寒い」といった呻き声が聞こえる。


・ 津波で瓦礫となった車の中を、1台ずつ覗いていく青白い顔の霊がいる。


上記の3点だろう。

どうも霊達は亡くなった時の記憶で動いているようだ。


走る足音の霊は、津波にのまれ亡くなったのだろう。現在に至っても未だに津波から逃げている様子だ。


うめき声の霊は、

瓦礫の中で見つけてもらえず凍死をされたのだろうか。


瓦礫の車を覗く霊は、自分が亡くなった事にも気付かず未だ見つからぬ家族を探し続けているのかもしれない。


タクシードライバーは、

乗せた霊に話しかけてみると

「私はもう、亡くなっているのでしょうか。」

という質問をよくされるそうだ。


霊は亡くなっていることに気づいていない。

気づいているが、受け止められず成仏できない。

・・ということが解る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


タクシー運転手(34歳)


「お客さん、ここから先は目をつむっていたほうがいいですよ。」


「あ・・ああ。

沿岸部の道路ですね。」


沿岸部付近の、高台のある地域を夜中に走行すると


キー-・・ン!

と強い耳鳴りが起こる。


(・・出た。)

(ひぃ・・!)


客を乗せたタクシーは高台を走り、坂を下っている。

ヘッドライトが照らす暗闇の中、

ボゥゥ・・と幾つもの青白い顔が浮かんだ。


顔はそれぞれ

眼鏡をかけた壮年の男性。ジャージ姿の中学生。

車椅子に乗った青白い顔の老婆。

車椅子を押すやせ細った若い女性。


(エプロンを着けているところをみると介護福祉士だろうか。)


霊たちは車中をすり抜け、坂道をあがる

丘の高いほう高いほうに向かって走って行く。


(くっ・・・!)

(ひい~・・。)


霊が身体をすり抜ける度に、全身をひりつくような寒気が襲う。


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