強い未練を持った霊

2015年 初夏

フロントに盛り塩を置いて走るタクシー。


タクシー運転手(52歳)は深夜、

石花駅周辺で客を待っていたところ

ファー付きのコートを着た30代くらいの女性が乗車してきた。


「幽霊か・・。」


ドライバー仲間からきいた

「盛り塩を置くと霊の乗車が減る」

という話を試したが、まるで効果は無い。

季節外れの服装をした幽霊が乗ってきた。


目的を尋ねると、女性はこう言った。


「南浦まで。」


「あそこはもうほとんど更地ですけど構いませんか。それと、そのコートは暑くないですか?」


「南浦まで。」


運転手はミラーから後部座席を見たところ、

青白い顔をした女の顔、切迫した形相をしている。


「・・!?」 


ここで運転手はピキッ!と体が動かなくなる。

目を下に向けるとフロントに置いてあった盛り塩が散乱して、足元に撒かれていた。


「う・・うぐ・・!?」


再び、後部座席を覗くと女の霊が消えている。

足元には長い髪の毛が巻き付くような違和感がある。


「・・!!」


頭の上から氷水をかけられたような寒気が襲い、

気付けば運転手はアクセルに足をかけていた。


(うぐぅ~・・!!)

(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・!)


心で必死に念仏を唱えたが、足がアクセルに向かって髪の毛に引っ張られるようだ。


ヴゥーーーー・・!!

と車は進行していく。


(助けてくれぇ・・・!!)


「ひた、みなひふ・・うら・・・せぐ・・!」

(わかった!南浦まで乗せていく!)


何とか口を動かせたのだろうか。

それを言うと金縛りが和らぎ、足にまとわりつく髪の毛がとれたようだ。


(!!)


下を向くと、案の定

女の首から上の顔だけが足元にあり


「南浦まで連れていってください。」

「南浦まで連れていってください。」


と小さな声で、しかしながら早い口調で言ってくる。


(もう嫌だ。)


たしかに幽霊の乗車は減ったが、

強い怨念に出会すだけだ。

強い怨念には清めの塩などまるで効果がないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る