季節外れの服を着た少女の霊

運転手(38歳)

2014年の夏

運転手は、季節外れの服を着た15歳前後の少女を乗せた。


時間は深夜3時にさしかかる。

まだ瓦礫の片付かない沿岸部で

コート、マフラー、ブーツという

15歳前後の少女がひとりで手をあげていた。


不審に思いながらもタクシーをとめ

「ひとりですか」と聞いてみると、

家の場所を答えたので、

そこまで連れて行き、彼女を降ろした。


運転の途中、バックミラーをのぞくと

おそろしいまでに白い顔をし、口から血を垂らした

生気のない霊の顔が映っていた。


「また、霊か・・。」


降ろした場所は津波の直撃した

現在いまでは何もない更地であったが

彼女は「ありがとう」と言ってタクシーを降りると姿を消した。


―――――――――――――――――――――――――――


メーターは切られており、支払いはなかった。

ドライブレコーダーには青白い顔をした少女の霊がまざまざと映っていた。


幽霊を乗せると

タクシー会社の記録は無賃乗車があった扱いになる。


客を確かに乗せたが、代金は支払われなかった。

という理屈である。



タクシーの運転手は歩合制。


「これで何度目だろう、この土地でドライバーを続けるのは苦しい。」


運転手はがっくりと肩を落とした。

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