第13話 破綻
側でパトカーが停車するや、中から警官が飛び出してきた。そしてヤシロとナガセの二人を引き剥がすと、距離を開けてそれぞれに事情聴取を始める。警官からすれば、まずは状況を把握する必要があったからだ。しかし通報者だけが傷だらけであったことから、ヤシロには紳士的に、ナガセには威圧的に臨んでいた。
「つまり悲鳴を聞いたので通報したと?」
「はい」
仕事の帰宅道にて路肩に停められた車から悲鳴が聞こえてきたので覗き込むと、少女が男に襲われていた。なので助けに入ったのだが、一方的に殴られてしまった。
ありのままの事実を話すわけには行かないヤシロは、話を作って警官の質問に答えた。無論、強盗やら空き巣の件は伏せる。ナガセは被害について訴えているだろうが、それは先述したとおりに証拠もないことなので、おそらく警官は取り合わないだろう。ここで真面目に生きてきたことが活かされる。あとは車内から大麻が発見され、車の所持者であるナガセが大麻所持の現行犯で逮捕。
それがヤシロの考えた筋書きだった。
「ふむふむ。じゃあ、被害者の女性が何処に行ったか分かるかな?」
「一目散に逃げていったので……。その間、僕は殴られていましたし」
「そっか、分からないか」
「すみません」
「いやいや、仕方ないよ」
警官は話を一通り書き留めると、その流れで所持品検査をさせてほしいと。何故、そんな要求をしてくるのか。ヤシロは疑問に思ったが、断ると面倒事に発展しかねないと考え、ポケットの中身を提示。財布、携帯電話、名刺入れ、煙草、丸めたメモ用紙。警官は財布から免許証を取り出し、身元を確認。名刺からは勤務先を確認。丸めたメモ帳を広げ、内容を読む。それらの情報を書き留めていく。
「これで全部?」
「はい」
「ごめんね。べつに疑ってるわけじゃないんだけど、一応ね」
「疑ってるって、なにをですか?」
「いや、じつはね」
どうやらナガセがヤシロによって強盗と空き巣の被害に遭ったと訴えているそうだ。
つまり先ほどの所持品検査は、それを確かめるのものだったと言うことだ。
だからヤシロは安心して「知りません」と想定どおりに白を切る。
警官も二人の身なりからどちらの証言を信用するかを判断しているようだった。よく「人は外見で判断してはならない」と言うが、そんなことはない。人間、大抵は見掛けどおりだ。地味な格好をしている者は控え目な性格だし、キッチリした服装をしている者は真面目な性格だし、その逆も然り。ナガセの言葉が信用されなくても当然のこと。
しかしヤシロは重大なことを失念していた。
「じゃあ、もうひとつ確認したいんだけど、いいかな?」
「はい」
「これ、きみの物?」
ナガセの車を調べている際に発見したバッグ、その中には大麻が詰まっていた。これの持ち主は誰なのか。ナガセに問うと、ビジネスバッグだから会社員であるヤシロの物だろうと答えたそうだ。
「だから一応の確認にと思ってね。っで、きみの?」
「えっと……」
ヤシロは言葉に詰まる。
何故、これほどの重大事を忘れていたのか。このままでは大麻所持者と思われてしまう。
想定外の出来事にしどろもどろしていると、警官は何かを察したようだ。
「このバッグ、もしかして本当にきみの?」
「あの……。はい」
「じゃあ、どうしてきみのバッグの中に大麻が入ってたの?」
「それは……」
「答えられないの?」
「そういうわけでは……」
「じゃあ教えてよ」
「その……。分かりません」
「分からない?」
「はい」
「きみのバッグに大麻が入っていた理由が分からない?」
「すみません」
「すみませんじゃなくて……。どうやら詳しく話を聞く必要がありそうだね」
そう言って警官は無線で何やら連絡する。
「今のは?」
「ん? パトカー一台だと
「それって……」
「パトカーをもう一台呼んだからさ、来たらそれに乗ってもらえるかな?」
「……はい」
同意を求める言葉だったが、もはや命令に近い。
このままではまずい。どうにかバッグの件を回避する言い分を考え出さなければ、本当に最悪の事態になりかねない。
そんな時だった。
「あの、ちょっといいですか」
不意に側で声がした。
振り返ると、そこには予想外の人物が立っていた。
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