第2話  最初の街の難易度がエクストリーム

このままここにいてもしょうがない。

ひとまず外で魔物を狩る事にした。

魔物をうまく倒せば素材が手に入り、それだけで生計が立てられるかもしれない。

ちなみに所持品の中にお金が入っていて、全部で50ディナあった。

これは薬草5・6個買って、宿に一晩泊まったら無くなっちゃう額だ。

気軽に使えるお金じゃない。


幸いにも武器はショートソードがあるし、薬草も一つある。

一番弱い魔物となら戦えそうだ。

しばらく草原をウロついていると、足元からザザザッと草をこする音が聞こえた。

さっそくお出ましのようだ。



グリーンスライムが1体出た!


良かった、たぶん一番弱いヤツだ。

ここは先手必勝だ、喰らえ!

やたらめったらに振り回しただけで、それなりに手応えがあった。

多少のダメージが通ったみたいだ。

こちらの攻撃が終わると、スライムも攻撃してきた。

触手のような塊が叩きつけるようにして伸びてくる。

ゴフッ・・・結構いいの貰っちまった!


でも戦えない相手じゃないな。

この! くたばれ!

素人丸出しの応酬が続いて、なんとか勝てた。

戦闘終了だ。


でも素材は諦めた方がいいだろうな、売り物になる表皮部分がだいぶ傷ついている。

こいつから素材を得ようとしたら、鋭い刃物で突き殺すのがいいんだろう。


そうだ、経験値も入ったはずだ。

ステータス画面で早速確認。

画面上の別項目に移動すると


経験値 2

NEXT  8


と表示されていた。

今のスライムで経験値2なのか、それじゃあと4匹倒せばレベルが上がるみたいだ。

ちなみに生命力も12から8に減っていた。

やっぱりダメージを貰っているんだな。

これが0になると、やっぱり死ぬんだよね?



でもスライムは倒せたし、なんとかやっていけるかもしれない。

とりあえずレベルを上げて強くなって、素材も手に入れてお金を稼がなくちゃ。


ガサガサガサッ!

次の敵のお出ましか、やってやるぞ!



グリーンスライムが3体出た!



あ、そうだよね……。

いつも1体だけとは限らないよねー、にっげろーー!





はぁ、はぁ。

なんとか撒けたらしい。

もう少し慎重にいかないとダメだね。

こっちから見つけて、出来るだけ先制攻撃をしかけよう。



それからなんとか2体のスライムを倒して、経験値が6になった。

流石に素材までは手に入らなかったけどね。

倒すのがやっとで、他の事に気を遣う戦い方はまだできそうにない。

そろそろ陽が暮れるから町へ戻ろうかな。

一人で野宿するなんて、自殺志願者じゃなきゃやらないからね。


さて、宿屋は高いけど、とりあえず行ってみよう。

運が良ければ安い部屋に泊まれるかもしれないし。



「すいません、一人なんですが。」

「な、なんだアンタは!そんな格好でウロつくなよ!」

「え、えっと、一晩泊めて欲しいだけなんですけど……。」

「ウチは信用で食っていってんだ、アンタみたいな変態を泊められるわけないだろ!」

「そんな、じゃあ馬屋とか倉庫でいいですからどうか」

「今すぐ出て行け! 衛兵を呼ぶぞ!」



追い出されてしまった……。

これ一体どうすりゃいいのさ?

さっき道具屋で薬草を買った時も、一つ当たり5ディナ取られてしまった。

他の人には3ディナで売ってたのにね。

文句を言うと、じゃあ買うなだって。

もう笑うしかないね。


町の人に嫌われると大変な目にあうって聞いた事あるけど、本当だったね。

重犯罪人なんかに対して物凄く非協力的になるんだって。

今それに近いものを体験しちゃってるよね。

僕は何もしてないんだけどな、不思議だね。


結局屋根のある所で眠る事ができずに、路地裏の一角で眠ることにした。

町の中に居るのはすごく怖いけど、魔物に襲われる心配が少ないから仕方ないよね。



あの女神は世界を救え、みたいな事を言ってたけど正直それ所じゃない。

今日一日の自分の心配だけで精一杯だ。

あー、イチチチ……。

軋む体で迎えた二日目の朝だ。

いっそ夜なんて明けなきゃいいのに、人の気も知らずに太陽は昇る。

石畳の上で無理矢理寝たせいか、骨やら関節やらが痛い。

こんな状態でも生命力は回復してるんだから、なんとなく理不尽に感じる。


その場所で朝食を摂っていると、猫が近寄ってきた。

ナァーーンと鳴くその声はまだ幼く、生後半年も経っていないような黒猫だった。

お前は、逃げないのか?

僕の足元に頭を擦り付けながら、そいつは鳴き続けている。

エサ目当てなのは重々承知だけど、初めてまともに接してくれた事が嬉しかった。

承認欲求に餓えていたんだろう。



膝に乗せてから、少し干し肉を分けてあげた。

ウミャイウミャイとでも言ってるかのように頬張っている。

それからしばらく黒猫と遊んだのち、別れを惜しむようにして僕は立ち去った。



色んな店を巡ってみて気づいたことがある。

嫌々ながらも相手をしてくれる店と、門前払いをする店に分かれているのだ。

食料品店や道具屋は大丈夫。

宿屋、武器屋、辻馬車なんかはダメだった。

どうやら命に直結しそうな物を扱う店だけ入れるみたいだ。

確かに薬草や食料品が買えなかったら生きていけないもんな。


だから今もこうして食品を品定めできている。

周りの白い目が、ヒソヒソ話が本当に……辛いけども。

ただパンを見てるだけなのに、変態がーとか言われてる。

この扱いには、いっその事慣れてしまった方がいいんだろうか?



そうしていると突然騒がしくなった。

衛兵らしき男が怒鳴り込むように入ってきたからだ。

え、まさか僕じゃないよね?

パンを見てただけで捕まっちゃうとか?!



「おいオヤジ! シスターを見たか?」

「いいや、昨日から見てねぇな。どうかしたのか」

「昨晩から行方がわかっていないそうだ。司祭様から捜索依頼が出ている。では知らないんだな?」

「すまん、助けになれなかった」

「そうか、邪魔したな。なんだ貴様は、どけぇっ!」



ゴフッ!

いってぇ……。

今本気で蹴らなかった?!

なんかアザできてるし、ステータス見たら生命力が1減ってるし。

ひょっとして、瀕死の状態だったら今ので死んでたんじゃ?

あーもうなんなんだよ! こんな街1秒だって居たかないよ!



当然のように値上げされた食品を、多めに買い込んでから外に出た。

気をとり直して経験値を手に入れよう。

今日にもレベルアップはさせておきたい。



それからしばらくして、グリーンスライムを2体狩ったところでレベルがあがった!

やった、なんか尋常じゃなく嬉しいぞ!

さっそくステータス画面で確認をする。



名前  レイン

年齢  17歳(男)

職業  冒険者

レベル 2

生命力 12  ↑1up

魔力  4   ↑1up

攻撃力 6   ↑1up

防御力 3   ↑1up

素早さ 6   ↑1up


役職  途方もない変態



うぅー、最後の言葉が目に入ってネガティブになってくな……。


どうやら全ステータスが1上がったみたいだけど、これって強いの?

でもほんの少しでも強くなれたことは素直に嬉しい!

この調子でいけば、近日中には素材を手にいれる所まで行けるかもしれない。


少し浮かれながら街に戻った。

この怒涛の2日間の中で、一番心が軽い気がする。

でもそんな心境も長くは続かなかった。


大通りを歩いていると、路地裏から猫の鳴き声が聞こえてきた。

普通の鳴き声じゃない、何かを訴えるような悲痛な鳴き声だ。

近くには数人の子供の姿が見えて、その隙間からあの黒猫の姿が見える。

少年の手に握られた棒を見た瞬間に、僕は全速力で駆けた。



「こ、コラー! 何やってんだ!」

「あ、ヘンタイだ。ヘンタイがきたぞ!」

「本当だ、父ちゃんが言ってた通り変なヤツだ。頭おかしいぞコイツー」

「お前ら、なんで猫をいじめるんだ!?」

「お前なんかに関係ねーだろー、ヘンタイがまともな口きくんじゃねえよ!」



猫を覆うようにしてかばったせいか、子供たちが振り下ろす木の棒が身体中に叩きつけられた。

手加減なしの無邪気な暴力が身体中に突き刺さる。

無防備に殴られ続けたせいで、少しづつ血が流れ始めた。

このままじゃマズイ、なんとかしないと……。



「ちょっと! 一体何やってんだい!」



あぁ、どうにか助かった。

ようやく大人がきてくれたよ。

これできっと先の見えない暴力から解放される。



「みんなその変態から離れな! あんた、今まで何もせずに温情をかけてやったってのに、とうとう子供たちに手を出したんだね!」

「え……えぇ??」



何を言っているのか意味がわからなくて、頭が真っ白になった。

こいつは いま なんの はなしを している?



「みんな来とくれ! 例の変態がとうとう尻尾を出したよ!」



そうオバさんが叫ぶと、あちこちのドアが開き怒号が聞こえてきた。



「なんだと、あの野郎もう許せねえ!」

「だから言ったろう、何かやらかす前に殺せって!」

「これでもう誰も文句はないだろ、殺すぞ。アイツはやっぱり危険なヤツだったんだ!」

「これ以上何かする前にブッ殺せ!」



殺せ!

殺せ!

殺せ!



殺せ!!!



突然街中に充満した殺意の渦。

殺せと叫ぶ人々の顔が見えるけど、みんなまともな表情じゃなかった。

まるで親の仇でも見るかのようで、話が通じる気配は微塵も無い。


これはいくらなんでもおかしい。

猫を助けただけで、なんで街中の人に殺意を向けられなきゃいけないんだ?

もし万が一、僕が子供に何かをしてたとしても、この反応は過剰なんてものじゃない。

何か強力な魔法や呪いにでもかけられているかのようだ。



咄嗟に町の門に向かった。

話し合いでなんとかなる段階じゃない。

今すぐ逃げないと。

門を閉めろ、逃がすな!なんて叫び声が聞こえるけど、事態を把握していない衛兵は動きが鈍い。

そのおかげでなんとか外へ逃げる事ができた。


運が良かったのかなんなのか、追っ手は来なかった。

防壁の内側から数本の矢が打ち込まれただけだった。

ここへは二度と来るな。

そんな言葉が籠められているのだろう。

こんな場所はこっちからお断りだ!


助けた黒猫だけど、大きな怪我はしていない。

ちょっと擦り傷やらの小さい傷で済んでいた。

よかった、骨折でもしてたら大変だったよ。

ごめんよ、お前の寝ぐらも無くなっちゃったね。

これから一緒に探しに行こうか。



僕の言葉がわかってか知らないけど、絶妙な間でニャァンと応えてくれた。

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