変態の烙印 ~平凡男子の無茶ブリ無双伝~

おもちさん

第1話  雑すぎる対話

真っ白。


真っ白な部屋だ。


上も白、下も白。


右も左も近くも遠くも、一面が白い世界。


その空間で汚点の様にポツリと存在してる僕は、酷く場違いな存在なんだろう。

そして目の前には、もう一つの異質な存在と言える何者かがいた。

この世界にはたった二人しか居ないのに、ほとんど口を聞いていない。

僕は何度か話しかけたけど、全くと言っていいほど相手にされなかった。


今も足をパタパタさせながら寝転がって、何か書物を無言で読み進めている。

ここが何処なのか気になって何度か聞いてみたら、



「るっせえんだよクソボケカスが! こっちは今休憩中だゴラァァ!」



そんな怒鳴り声を返されて、つい涙目になってしまった。

こんなに泣きたくなった気持ちはいつぶりだろう。


しばらくすると甲高いピピピピなんて音が聞こえた。

ん、鳥かな?

それにしちゃ何の生き物もいないようだけど。

その音が聞こえると、目の前の人物は腰をトントン叩きながら起き上がった。



「あぁーダリい。働きたくねえ腰いてえークソ」



短時間で愚痴を散々に詰め込んで、その人物は立ち上がった。

そして居住まいを正して、咳払いをしてからこう言った。



「ようこそ私の部屋へ。私はあらゆる物事を司る女神です。あなたをお待ちしておりました」

「えぇ……?」



どの口がそれを言うんだろう。

さっき怒鳴ってたじゃん。

暴言吐きまくったじゃん。

今まで散々ほったらかしにしたよね!?

僕が返答に困っていると、それに構わず女神が続けた。



「困惑するのもわかりますが、まずは話を聞いてください。あなたは既に死んでしまった存在です」

「そういえば、崖から落ちてしまって……」

「そんなあなたですが、私の力で同じ世界の同じ時代に、蘇ることができます」

「え、そうなんですか?」



山道でうっかり足を踏み外して死んだだけの、平凡な村人なんだけどいいのかな?

もっとこう伝説の賢王とか、宵闇の魔女とか、凄そうな人を選ばないの?

でももう一度家族に会えるなら、願ったり叶ったりではあるけれど。



「諸々の設定は弄らせてもらいますけどね。まずは天涯孤独のぼっちで、生業は冒険者になってもらいます」

「え、ちょっと待って」

「年齢は死ぬ前と同じ17歳でいいでしょう。国は……面倒だから中央大陸で」

「ま、待ってください!」

「冒険者としての役職は……ブフッ、これでいいですね。あとは最低限の所持品っと」

「待ってください! あと役職で笑うってどういう事?!」

「さぁ時は来ました。世界は滅亡の時を迎えようとしています。転生者よ、願わくば救世主たらんことを」

「少しは話をきいてくださいよー……」



徐々に意識が遠ざかっていく。

白い世界がさらに輝きを増して、目を開けていられなくなる。

そんな声を最後に意識が途切れた。





そして目がさめると、草原のど真ん中だった。

少し離れて町があり、整備された街道のようなものが延びていて、それは森の中へ続いていた。

見慣れない景色だけど、ここはどこなんだろう?

誰かに聞ければいいけど周りには人の気配がなかった。

街に行った方がいいだろう。



<あ、その前にステータス画面開いてみなさい>


うわ、びっくりした。

頭に直接声が響いたけど、これもしかして女神様か?


<そーそー、あの麗しい超絶美人の女神様よ>

<え、なんで頭に声が?>

<最初からつまずかないように誘導してあげてんの、そんなことよりさっさとステータス!>

<わ、わかりました!>



なんか釈然としないけどステータス画面を呼び出した。

心で開こうと思うだけで、いろんな情報が見られる便利な力だ。

名前  レイン

年齢  17歳(男)

職業  冒険者

レベル 1

生命力 12

魔力  4

攻撃力 6

防御力 3

素早さ 6 


役職  途方もない変態



うーんやっぱりレベル1かー。

これから強くならないと冒険者なんかできないよな。


僕は明るくない未来を想像しながら画面を閉じた。


ん?

見間違いかな?

ステータスの、特に最後の方だけど。

なんかすんごいものが見えたような?

まさかね……。

もう一度開けばいい、勘違いだったと笑えるさ。



役職  途方もない変態



えええええーーー!!

なにこの役職!!


<ブッヒャッヒャッヒャ! 気づいた? 気づいちゃった?>

<ちょっと! 何なんですかこれ!?>

<見ての通りアンタの役割だよ。戦士 僧侶 魔法使い 途方もない変態って言うっしょ?>

<いや聞いたことないし! そもそもこれどんな役割なんですか?!>

<まぁまぁ、ともかく町に行ってごらんよ。まずは肌で知ろうよ>

<……今から嫌な予感が凄いんですけど>



気が全く進まないけど、街へ向かった。

入り口に女の人がいる。

この辺りの事を聞くにはちょうどいいかもしれない。



「あのー、すみません」

「あら、外の方なんて珍しい。この街は……キャァァアアアーー変態!」



バタン!



え、今なんで逃げられた?

叫びながら家に飛び込んでたけど、僕がなんかやらかしたの?


<あーーぁ、何やってんの。あんなうら若き乙女にさ。トラウマになっちゃうじゃん>

<いや、いきなり絶叫食らったこっちもトラウマもんなんですけど>

<まー細かい事は置いといてちゃっちゃと行こうか>

<はぁあ、何だってんだよ……>



次に会ったのはガタイのいいおじさんだ。

女の人は怖くて無理だから、この人ならなんとかなる……かな?



「あの、すみません。ちょっと聞きたいんですけど」

「おう兄ちゃんよ、ふざけてんのか? ぶっ飛ばされないうちに消えろ!」

「えぇ……?」



物凄い剣幕で追い払われた。

よそ者嫌いな街って訳じゃあ、ないんだろうなぁ。


<あーぁ、あんな怒らせちゃって。ほんとダメなヤツだねー>

<いや、絶対これ役職のせいでしょ?>

<あ、普通に気づいた? その通り、アンタは今周りの人から、とんでもない変態に見えるようになってるよ>

<え、それってどういう事?>

<うーーん、簡単に言えば超卑猥な人に見える?>

<見えるって言ったって、僕は普通の格好してますけど?!>

<でも他の人にはそう見えない、ギリ陰部が隠れてる感じに見えてる>

<ギリ陰部って……もうマトモな人生歩けないじゃないですか>



他の人と挨拶すらろくに交わせないだなんて。

こんな状態で生きていける訳がない。

そもそもギリ陰部ってどういう状態なの?



<まぁまぁ、ジョークだから。これ女神ジョークね?>

<いや、ほんとシャレになってないんですけど>

<ちょっとしたお茶目じゃない。じゃあステータス開いて、今から役職変更するよ>

<え、出来るんですか?>

<アンタは特別だよ? 普通はこんな真似、大神殿の高位の僧侶にしか許されないんだから>



ああ、よかった…。

ずっとこのままだったらと思うと、本当にぞっとするよ。

促されるままステータス画面を開いた。



<それで、どうしたらいいんです?>

<まずはね、役職の部分に指を触れるようにイメージしてみ? そうすると他の役割が選べるようになるから>

<えっと、できませんけど?>

<え、嘘?!>

<ほんとですって! 何も反応ないですよ?>

<ちょっと待って……えぇー! なんで灰色かかってんの?! なんで権限ナシになってんの!>

<なになに? 結局どうなんです? 変更できるんですよね?>

<できる、けど今は無理>

<そんなぁ……>



上げて落とすってやつをこのタイミングでやられてしまうなんて。

傷心の心には大ダメージだった。



<どーすんのよコレ! こんなクソ能力じゃ世界救えないじゃないよー>

<知りませんよ、どうすんのってこっちのセリフですよ!>

<はぁーー。とりあえず外すから、その間はなんとか凌いでね>

<待ってください、この状態でほっぽり出すんですか?>

<うっさい! 私は忙しい身なの! とにかく、その辺の雑魚倒してレベル上げといて。ある程度上がっても無理しないで、その町から動かないでよ。じゃあね!>



それっきり声が聞こえなくなった。

ほんとに放り出されてしまったらしい。

こんな状況でどうしろって言うんだろう?



念のために他の人たちとも話してみたけどダメだった。

怒るか逃げるかの2パターンだけが返ってくる。

まだここの地名すら聞けてないんだけど。


魔物を倒すより、ダンジョンを攻略するよりも、街の人との接し方の方が遥かに難易度が高そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る