俺、行きます!④
キンジーと一緒に村長の家を出た後、男たちも帰路に着く。残った村長と村会の上役たちはさらに話し合いが続けられた。しかし、若い2人が村の外への旅立ちについては最後の最後までまとまらなかったそうだ。
そんな中、村長は上役たちに言った。
「わしは後悔しておる。もっと早くに決断すれば良かった。先代から受け継いだ村の掟に縛られ、目が曇っとった。
だがのお、最後にわし自身も納得できる判断できたと思うとる。
もし、魔法使いが見つからずこの村が滅びようとも、ウーノとキンジーがいれば、村の血は、魂は、決意は途切れない。
必ず受け継がれる。わしはそれだけで、満足しとるよ」
この言葉をきっかけに村は再び一つになったそうだ。
家に着くと、母が笑顔で迎えてくれた。
「明日出発するんでしょ?」
「え?」
まだ村会が終わったばかりだというのに、母は悟ったように旅立ちを言い当てた。
「なんで知ってるの?」
「わかるわよ、お母さんだもの」
「そっか」
「ご飯、食べるでしょ?」
「うん」
夕食の準備をする母の後ろ姿を眺め、それから改めて家を眺める。木造の平屋建て。三人で暮らすには少し狭い。しかし、住み慣れた実家だ。
しばらく……いや、もしかしたら二度と帰れないかもしれない。
だからこそ、この光景を目に焼き付けるように、私はただただ眺めた。
母が夕食を膳に取り分けていると、父が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、あなたもご飯食べるでしょ?」
「ああ、頼む」
何か小言の一つでも言われるかと思ったが、父は黙って食卓の机に就く。
カチャカチャと箸と茶碗が擦れる音がやけに大きく聞こえるくらい静寂に包まれた空間の中で、私は我慢できず、旅について父に切り出した。
「なんで父さんはあの時何も言わなかったの?」
その質問に対しての返答はすぐにはなく、黙々と食べ進める父を見ながら私は茶碗と箸を机においた。
「父さん、俺、キンジーの父さんに頼まれたんだ。キンジーを頼むって。だから、キンジーを危ない目には合わせない。そして、絶対魔法使いを連れて帰ってくるから」
父は食べ終わった茶碗を机に置き、立ち上がると、古びれた木造のタンスの一番上を開け、何かを取り出した。
「なに?それ」
父が握った拳を開くと、紫色の半透明をした石で、石の中には小さな星空が入っているように輝いていた。
「これは昔、
「魔導石?」
「魔導石は魔法をため込む性質を持っていて、この中にも何か魔法がため込まれているそうだ」
父はそういうと、自分の手の平から、私の手の平に魔導石を転がして移した。
「くれるの?」
「ああ。お守りだ。気休めかもしれんがな」
「ありがとう、大事にする」
「そんな物大事にしなくていい。ただの石だ。大事にするのならは自分の命を一番に考え、自分を一番大事にしろ」
そういうと、寝室の扉を開けて、中に入って言ってしまった。
「ウーノも早く寝な。簡単な準備なら母さんがやっとくから」
「いや、俺も手伝う。これは俺の旅なんだから」
翌朝、村長から魔法使いを雇うための特産品を沢山詰め込んだ荷物を渡された。
「プラガ村を頼んだぞ」
「俺……いや、私は頼まれてばかりです」
「皆、おぬしを頼りにしておるんじゃ。許してやれ」
「いえ、そうではなく」
「なんじゃ?」
「みんなの役に立てるのが嬉しいんです」
「そうか」
荷物は少し重かったが、踏み出した一歩は軽く、カラッと晴れた日の光を浴びながら振り向かずに前へ進んだ。
「キンジー、行こう」
「うん!」
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