第11話 俺の境界と進化
俺はそのまま世界の全ての存在とつながったままの土塊として存在し続けることはできたが、俺はやはり人間だった頃の生きるという感覚にこだわることにした。
それにはまず自分の境界を作り、自分を世界全体から切り離す必要があった。
俺は、境界を作り世界と切り離された後のことを考え、土塊としての自分の周りの環境を整えることにした。
俺が知る限りの環境であったから、甚だ不完全なものであったに違いないが、強過ぎも弱過ぎもしない光と熱を得られる位置に、俺は長い時間をかけて空間を移動した。移動といっても、土塊の俺には自ら動く機能はないから、その移動には人間で言えば気の遠くなる時間と思考を要したし、俺が動くだけではなく、恒星にも移動してもらわねばならなかった。
土塊の上に、液体としての水を得て、電気の流れる活発な状態を作り出す。そこではじめて俺は、その水の中に自らの土塊のものすごく小さなかけらを切り離し飛び込んだ。そして、おれはその小さなものを自分だと、自分の境界だとすることにした。俺ははじめて自分の境界を持ち、全体の世界と切り離された。
俺の考えが間違えていなければ、土塊から切り離した炭素を含むこの体が、活発に活動するこの電子の海の中で、様々な物質と混ざり合い、人間の定義する生物としての第一歩を踏み出すはずであった。
俺の体は、境界は限りなく小さな範囲になった。そして、その体を自己複製できるシステムを整えた。自己複製を永遠に繰り返すことができるので、死というものはまだなかったが、俺は、その時点が狭義の生物の誕生だったと思っている。広い意味では、全てが生物だと考えているが。
そして、この後は、皆が進化論として知るとおりだ。自己複製を繰り返すだけの単純な単細胞生物から、複数細胞を持つ生物に、一遍に絶滅するリスクを減らしたりするため多様性を持とうと、有性生殖ができるようにもなった。
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