第7話 世界を作れる?

この世界の存在と呼ぶべき意識はもうカウントすらできないほどに増殖し続けていた。そして、彼らによると、そのすべてが俺だと言うのだ。ただ、俺にはそれらが俺とは別の自我を持つ他者だと感じられるのだ。形もなければ、性別もない、あるのは思考によるコミュニケーションだけだったが、俺にはそれが俺とは異なる存在だと思えたし、そう信じた。そう信じなければ、元の永遠に続くと思える孤独に戻って、俺は耐えることができないとも思えた。

ヨンセンニケイサンビャクジッチョウうんぬんが言う。

「私たちがここに生まれたように、あなたはなんでも生み出すことができるのよ。私たちがここに現れたように、あなたがそれを願い、信じればいいの。」

強く念じ、信じれば何かを生み出せると? たしかにその言葉は、自分が他者を呼び込むことができた時の実感と矛盾しないものだった。

ならばと俺は、実際には存在しないまぶたを閉じ、できない呼吸を整え、俺がよく知っている生きていた頃の世界を想像した。この無いまぶたが開いた時、全ては元通りの世界になっているんだ。夜中に狭い部屋の布団に横たわる自分をイメージし、朝になれば話し相手のいない学校に行く自分を強く思った。

長い間念じ、実際には無いまぶたを思いきって開いた時、しかしそこにあったのは元の暗闇だった。正確には暗闇すらなかった。ただ、自分が作ったという無数の自分が他者として、意識として存在している世界のままだった。

サンが言う。

「あなたがほんとに願い、信じていないことを念じても、それは現れないわよ。」

俺は、元の世界に戻ることを願っているはずだった。もちろん、不満はたくさんあった。俺は暗く冴えない、いつもひとりぼっちの奴ではあった。学校でも家でも、いつも自分だけの静かな世界の中に閉じこもるだけの生活ではあった。誰も俺を見ない。気に留めない。退屈だったし、孤独だったし、悲しかった。でも、今になれば、あの世界はなんてリッチな、刺激に満ちた賑やかな世界だったのだろうと思う。俺がここにいたいと願っているはずがなかった。俺が、元の世界に不満を持っていることが駄目なのか、どこがであの世界を拒絶しているのか。しかし、一切の不満を持たない完全な人間など、存在しないだろう。

「不満やどこかで拒絶していることも理由の一つかもしれないけど、それよりも、重要なのは、あなたがあなたの中で描く世界を、現実だと信じきれていないことの方が問題だわ。」

サンは俺が考えたことに応えて言った。

俺は俺の世界を信じきれていない。俺はいつの間にか、この無の世界こそが現実だと認識するように、信じるようになっていたのか。でも、そうだとしたら一体どうしたらいいのか。

「自分が信じられる範囲で、あなたが望む世界を実現させて行くしかないんじゃない?」

サンが重ねて言った。

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