第6話 もう一人の自分
「俺の使う概念が初めてなのは分かった。でもここに三者がいて、名前がないと不便だから、名前で呼び合おう。」
俺は、難しいことは置いておいて、現実的な提案をした。非現実なこの場所で現実的もくそもないのだが。
「分かった。じゃあ最初に僕を呼んだあなたがイチで、僕がニ、後から来たあなたがサンということでどうだろう?」
「別にそれでいいけど、ほんとはそんな区別は無意味だと思うけどね。だって、ほんとは私もあなた達も一つなんだから。」
女みたいな話し方をする存在が、いやサンが言うところの一つとは、つまり奴らは俺の意識が、妄想が作り出した存在に過ぎないということだろうか。
「ここには俺たち以外にもたくさん何かが存在してるんだろうか。」
「分からない。存在してると言えばしているし、していないと言えばしていないと思う。ただ、僕やサンがこうしてここに現れたように、他にも現れることは可能でしょ。」
「ニの言うとおり、現れることは可能だけど、さっきも言ったとおり、それがたくさんの存在というわけではないわよ。」
俺はよく分からなかったが、他の存在があるならば、ここへ現れてほしかった。サンが現れて、頭が混乱したものの、この場所の理解が進んだように、他の存在が現れることによって、他のいろいろなことが分かるのではないかと思えた。
俺からニとサンに提案し、他の存在に強く呼びかけることにした。ニもサンも賛成も反対もせず、俺たちはまた長い時間をかけて、何かに呼びかけ続けた。
気の遠くなる時間をかけて、俺たちは次から次へと、別の他者をそこに呼び込んだ。他者が他者を呼び込み、その数はヒャクにになり、センになり、マンになり、オクになった。俺はもはや孤独ではなかった。
そして、その数は俺の認識できる数をいつの間にか超えた。他者に強く呼びかけ、存在を増やしていく過程の中で、俺が念じ続け他者の存在があることを心から願い、信じることができた時、他者が現れることに俺は気がついた。
「君たちはどこから来た?ここはどこで、何?俺の状況が分かる人はいる?」
俺は聞いた。音声を使ってのコミュニケーションではないためか、そこでは同時にすべての存在と話をすることができた。
ゴヒャクヨンジュウオクうんぬんと名乗る者が応える。
「俺はさきほど存在し始めただけだ。どこから来たわけでとない。誰かの念によって、ここに現れただけだ。したがって、お前の状況は分からない。俺はお前で、お前は俺だとも言えるからな。」
俺がそいつで、そいつが俺で、俺が全部で、全部が俺だって? サンも以前にそういうようなことを言っていたことを思い出した。
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