第2話 臨死体験?死?

俺ははじめ死んでしまったとしばらく思っていた。これが、死ぬということだったのだと思った。

強く光るゴムのようなエネルギー体が、布団で横たわる体から、伸びに伸びきる。なぜか横たわる自分を上から見ているような、客観視しているような感覚だった。恐怖とわくわくとする高揚感が入り混じり、ある瞬間ぷつりと線が切れると、その瞬間もの凄い快感に襲われた。眩しいほどに輝く、光のトンネルのようなものをくぐる間中、どれくらいの時間だったのか、かなり長い間、今までに感じたことのない凄まじい快感が全身を駆け巡った。幸福感とも刹那的な快感ともとれるその感覚は質、量ともに、想像できる範囲を超えた圧倒的な快感、幸福感だった。

しかし、そのトンネルの後に待っていたものは、完全なる闇だった。無と言うべきかもしれない。暗闇というのか、光が一切ないというのか、見えないというのか、ただ真っ暗だった。俺は言葉を発した、つもりだった。が、それは声にならなかった。何も見えない、聞こえない、何かがここにあるという感覚が一切ない。自分の体さえ知覚することができない。だが、暗闇の中で意識だけがある。考えることだけができる。その点だけで、自分がまだある、生きていると思った。

どれだけの時間が経ったのか、分からない。一切の外部からの感覚がなく、ただ、自分の意識だけがあるのだ。いや、外部感覚だけでなく、内部の感覚もない。疲労感も睡眠もない。内部の不快な感覚ですら切実に欲しいと思った。自分の意識、思考だけが、実体なく存在していた。

医学的な実験でも、五感を可能な限り遮断され、狭い空間に閉じ込められていると、人はすぐに気が触れるというが、まさしくそれだった。空間と呼べるのかすら分からない、その空間で、自分はまさしく発狂した。だから、時間がどれだけ経ったのか分からない。いや、はじめから時間感覚も失っていたのかもしれない。

これが死と呼ばれるものなのかもしれないと思い始めた。何もない世界。世界すらない、永遠の無。無の中に自分の意識だけが浮く。

それが受け入れられなくて、俺は叫んだ、つもりだった。だが、それは声にならず、音など存在しなかった。俺はしばらく、誰かいないか、ここは何だと自分の中だけで叫び続けていた。暗闇の中で、自分の意識だけがはっきりとしている。腹も減らなければ、疲労もない、眠くもならない。もしすると、自分は脳死や植物状態と呼ばれる状況なのではないかと考えたりもした。

それがどれくらい続いたのかも分からない。こちらの世界で言うところの何十年も経っていたのかもしれないし、もしかすると数ヶ月のことなのかもしれない。もはや時間感覚が一切なくなっていたので、分からない。何百年も経っていたかもしれぬ。俺は叫び発信しようとすることすらできなくなって、ただ真っ暗なところで意識だけ浮かんでいた。完全なる無の中での永遠の孤独、想像できないとは思うが、これこそが本当の地獄であると、体験者である俺は思う。地獄とはもちろん鬼がいたり針山がいたり、痛みを伴うものでもない。永遠なる無による孤独、それは地獄なのだと俺は思う。

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