第4話 この異?世界の真相
「ねぇ.きみ,転校生らしいよ?」
画面を見ていた顔をこちらに向けた芹田がそんなことを言う.
(どういうこと?)
転校生?この少女たちの通う高校に俺が通うのか?
机の向こうにいた少女はディスプレイをこちら側に向けると,立ち上がってこちらに回り込んできた.腰まで伸びる黒いロングヘアが揺れていた.やはり芹田と同じくらいの背格好だったが,おとなしそうな見た目にスレンダーな体型は,活発そうな芹田と並ぶと対照的に見えた.
彼女の服装を見て自分が着ている服とよく似ている気がした.ズボンがスカートになっている等の違いがあるが,同じようにデザインされている.
(この服って,高校の制服だったのか……ということは,だ)
今までの出来事と今まで聞いた情報が頭のなかでつながりつつあった.
「もしかして,俺が警備員や警察に声をかけられたのって,高校の制服で昼間っから出歩いていたからか?」
「あたりまえでしょう」
なるほど,衝撃の事実だ.警備員に追われたのは俺が急に逃げたからか.
こちらに向けられていたディスプレイに目を向けると,そこには一人の人間のプロフィールが表示さていた.
(
「これ,俺?」そして,名前の下にはどう見ても10代の少年の写真が表示されていた.
「え?どう見てもそうだよ」と返されるが,鏡が無いと確認できない.
「えーと,俺っていま何歳なんだ?」
「4月生まれだから,もうすぐ17歳ね」
画面に表示された俺のプロフィールの生年月日を見て答える.
「ってことは同学年だね.ごめん,年下だと思ってたよー」
芹田は俺のことを年下だと思っていたようだが,俺も彼女たちよりだいぶ年上だと思っていた.というか俺も未成年だったのか.最初に見た光景がアレだったので,自分も同じような年齢の男だと思っていた.恥ずかしいので言わないでおく.
他に聞きたいことはある?と言われ,思いつくままに質問する.
「なんで駅前にあんなに不気味な建物が立っているんだ.建物の材質は何だ?」
「高層ビルがどうかしたの?材質とか詳しくは知らないのだけど,鉄筋コンクリートとガラスじゃない?」
「あーたしかに,あの高層ビル郡ちょっと不気味だよね」
「じゃあ,虚ろな目をしたモノトーンの格好のゾンビみたいな群衆は?」
「スーツを着たサラリーマンでしょう.今日は月曜日だし」
「なるほどなるほど.ブラック企業は大変だねー」と感心したように答えたのは,俺ではなく芹田だ.ブラック企業が何なのかは知らなかったが,たぶんこの世界に蔓延る悪の組織か何かだろう.
「この不自然に青い空は?」窓の外を見る.やはり青い.
「不自然って,まぁ確かに今日はとても天気が良いわね」
これが普通なのか.いや,よく考えたら空の色がどんな色か知らなかった.空色という単語は知っているが,こんなに青いんだな.俺が前にいた世界の空もこんな色だったんだろうか.
「重症ね」
「いやーあたしもびっくりしたよ.それに,さっきからの質問.わけわかんないし」
そんなこと言われても,本当に不気味な世界に来てしまったと思っているのだ.いまでもあの駅前にはしばらく近寄りたくないと思っている.
「じゃあ,記憶喪失君の身元も分かったことだし,この住所まで行ってみましょう」
プロフィールには住所も書かれていた.
「生徒会の仕事はいいの?」
「放っておくわけにも行かないでしょう」
正直もう移動したくないのだが,俺が住んでいることになっている住所まで行くなら仕方ない.
来たときと同じく,目立たないように裏口から出る.もちろん,目立つのを避けなければいけないのは制服を着た俺ではなく私服の芹田だ.
校門近くでしばらく待っていると,用事を済ませると行って一度別れたはるっちも出てきた.
「なぁ.この景色は本当に普通なんだよな?」
このあたりは高い建物が無いが,そう遠くない場所に不気味な高層建築群が見える.駅の方角だろう.
「とても難しい質問ね.私達がこれを普通だと思い込んでしまっているだけで,先入観の無い目で見ればあなたと同じような感じ方をするかもしれないわ」
少なくとも今は普通に感じるけど,と付け加えた.
ほどなく目的の住所にあるマンションにたどり着く.
階段をのぼってたどり着いた部屋には鍵がかかっていた.鍵を持っていたのを思い出して差し込むと,カチャリとロックが解除された.部屋の鍵だったようだ.
「開けるぞ」
ドアを開けて部屋に入ると,最低限の家具と壁際に積まれたダンボールが目に入る.
ダンボールには微かにホコリが積もっていた.それに窓に近いダンボールは日に焼けて窓際の面が少し変色している.どういうことだろうか.
とりあえずダンボールを開けると,衣類,食器,調理器具などが出てきた.あと保険証やキャッシュカードの入った封筒.
どうやら自分は地方から東京に出てきて,引っ越し直後……という設定らしい.
高校の学校案内や教科書も見つけた.
少女二人は,何が面白いのか部屋の写真を撮ったり,勝手にダンボールを漁ったりして満足したのち,満足したのか帰り支度を整え始めた.
「私たちはこれで失礼するわね」
「悪いんだけど,これの使い方教えてくれないか?」
持っていた携帯端末を見せる.先程これとよく似たもので彼女は写真を撮ったりしていた.
「なんだ,スマホ持ってるじゃん」
そう言ってスクリーンロックの解除の仕方を教わった.単に画面上をスライドすれば良いだけだったらしい.パスワードを設定しておいたほうが良いとかアドバイスをしつつ,勝手に自分のアドレスを端末に登録しているのが見えた.
「じゃあねー」
そういうと二人は帰っていく.空は暗くなり始めていた.
結局,携帯端末はスマートフォンというものだったようだ.ロック解除操作が必要だったのか.
スクリーンにはアイコンが並んだ画面が表示されていた.スマートという割にはちょっと分厚いしあまり使い勝手も良くなさそうなUIだ.
ブラウザを起動するとインターネットにも接続できた.インターネットについては多少の知識はあるのに,接続するためのスマートフォンの操作方法を全く知らないことにも文句を言いたい.
端末を色々操作していると,自宅の住所が登録されているし,どうやら地図アプリも入っていることに気づいた.これが使えれば,自力で自宅にたどり着けたであろうことに,なんとも言えない微妙な気分になった.
唐突に何かのダイアログが表示されたと思ったら,画面が消えて真っ暗になった.
焦ったが単に電池が切れただけのようだ.段ボール箱から充電器らしきものを探し出し,なんとか充電する.
あまり自信はないが,たぶんあってるだろう.
転生先は日本です。 @f107dbade04dd438e0bbc49d4d8de7
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