第6話 鬼か蛇か
「さて、目的の場所はどこですかね」
街並みから想定するにフランスでしょうか?
「ジャンヌダルクの裁判って明日だっけ?」
と、聞こえたのでだいたい1400年頃ですね。 今回の件とは関係無さそうなので放置で良いでしょう。
ですが困りましたね。 あまり不審な行動をしていたら捕まりそうです。
「とは言えど、探さないと帰れないんですよねぇ」
経験からその時代に力を持つ集団、協会等が怪しいのですが、裁判で警備も厳重になってるでしょうね。
さて、どうしましょうか。
「迷ってもどうしようもありませんか」
何時ものように空間から本を出して、
「……出ませんね」
おかしいですね。 普段なら何処に居ても取り出せるのですが、 何かに邪魔されてるのでしょうか。
困りました。 歴史との相違を探し目的を探そうと思ったのですがこれでは出来ません。
「仕方ありません。 取り敢えず地道に情報を集めますか」
と思っていたのですが、
「そういや教会の地下に化物が捕まってるって噂聞いた?」
「あぁ、聞いたことはあるけどさ、うちの祖父母の親の親とかの時代からある噂らしいし嘘だろ」
「そんな昔からあんのかこの噂」
十代くらいの子供達がそんな話をしていました。
「すいません、 その話を詳しく聞かせて貰えませんか?」
と、声をかけた私に一人は警戒した猫のように睨み、 もう一人は楽しそうに話してくれました。
「街からちょっと離れた教会なんだけどさ、その教会の裏に2つ扉があるんだ。 で、その片方の扉が鍵も頑丈そうなものを使ってるのに誰も使ってるところを見たことがないから化物が捕まえられてるんじゃないかーって噂になってるんだよ」
ふむ、化物よりは聖遺物の管理をしてるというのがありそうな話ですが扉を使っているのを見たことがないのですか。
「お兄さんは誰なの? 見たこと無い格好してるけど」
「お兄さんですか。 これでも中々歳を重ねているのですがねぇ。 私は少々旅をしていまして、 物語を創っているのですよ」
「だから噂を聞きたかったの?」
「はい。 面白い噺は面白い経験から出来ることが多いんですよ」
嘘八百ですがね。 この時代にそんな大きな噂があったなんて聞いたこと無いですし当たりですかね。
これまでに創った噺を聞かせてとねだられ、昔読んだ本を少し変えて話したのですが好評でした。
子供達が言っていた教会に来てみたのですが……
「これはこれは、 地震で崩れそうな」
ボロボロでした。 それはもう外壁は亀裂だらけでホラー映画などに出て来そうな外観をしています。
だからこそ、ボロボロな外観に頑丈そうな木製の扉が目立ちます。 釘で板を打ち付けたうえに鎖を付け、ウォード錠を何重にも付けられていて、開ける気がないことがわかります。
「時代からも簡易な鍵が少ないのはわかりますがこれは……」
中のものを出さないようにではなく、中に入ることが出来ないようにされてる感じですね。
「取り敢えず入ってみますか」
ですが錠など私には関係ないんですよね。
「開け」
と、口に出すと全ての錠が開き打ち付けられていた板がはずれ扉が開きます。
……ほんとこの術を考えた人には感謝しなければなりませんね。
「さてさて、 鬼が出るか蛇が出るか。 入ってみますか」
地下に続く階段を降りきると鉄の扉がありました。とにかく頑丈にしようとしたのだと思われる実用性の一切ない扉です。
先程と同じように開くと、
「……これはまた面倒な」
毛玉がありました。
扉が開いた音に反応してか頭だけ(たぶん)をこちらに向け首を傾げています。
「はじめまして、私は栞と申します」
表情も見えないのでどんな反応をしているのかすらわかりませんねぇ。
身動き一つせずにこちらを見上げています。
「あなたはだぁれ?」
声が横から聞こえ、そちらを向くと緑色に光る球体が浮かんでいました。
「精霊ですか。 私は異なる世界で弓月図書館という図書館の館長をしている栞と申します。 この世界に入り込んでしまった異物を回収、または処理するために此処に来ました」
そう言った瞬間空気が重くなりました。 殺気と言うには言葉が軽すぎますね。
毛玉を守るように色々な光を放つ無数の球体が現れました。
「ころすの? ころすよ?」
精霊の愛娘(息子?)ですか。
「厄介な物は壊して回収するのが早いのですがね。 言葉が通じない獣は場所を探して放り投げ、人間ならその特異性を対価に居場所を作るのが私の役目でして」
「ころさないの? どうするの?」
言葉を理解してはいますが思考が幼いですね。下級と中級の間というところですか。
「本来なら先の通りに特異性を対価に居場所を作るのですが、 その子、言葉が解らないんですよね?」
精霊との会話に反応はしてますが理解は出来てないように見えます。 言葉を覚える前に此処に入れられてしまったのでしょう。
「わたしたちの言葉、人間とちがう。 あなたはなぜわかる?」
「知人に精霊がいますし図書館館長ですからね。 精霊語の本もありますから覚えました」
日本語で「うぉぁー、ぇいあぇあー」みたいな言葉なので凄く喉が疲れます。 それはもう疲れます。
「なら、どうする?」
「どうしましょうかねぇ。 うちで引き取って言葉を教えてから自分の場所を探してもらうのもいいのですが契約がめんどくさいんですよねぇ」
言葉が解らないと一方的になり最悪相手が死ぬんですよね。
「では、私達が代理で契約しましょうか」
はっきりとした、 人の形をした精霊が目の前に現れました。 ですが……。
「えー、精霊の王ですよね?」
ちっさいです。
「はい。 とは言え分体なので小さいですがね。 この姿でも契約は私となので不履行はしませんよ」
なるほど、分体だから小さかったのですね。
「とは言え私の契約は互いの同意の上での成立が条件でして、この子と契約を結ばないといけないんですよねぇ」
そういうと精霊の王は少し考え、
「では、この子を貴方の家に住み込みで言葉を教えて貰いたいと私と契約するのはどうでしょう? 一応私の核とこの子は繋がっているのである意味この子の了承を得て契約することに出来ますが」
さらっととんでもない事実を言われてしまいました。 精霊の王と繋がっている子を殺すのは流石に避けたいですし、 これで契約をするしかなさそうですね。
「わかりました、ではそちら側の対価は私に一度だけ、どんな状況であっても協力することでどうでしょうか?何も知らない子に教えるのは時間がかかりますからそのくらいの対価は頂きたい」
私の時間はほぼ無限に在りますがこの子は有限の時間ですからね。あまり悠長に教えていてはその前に死んでしまいそうです。
「はい。その対価で大丈夫です。とは言え力を貸せるのは契約する私だけなのであまり大きな力にはなれませんが……」
「では契約成立です」
成立と同時に契約内容が書かれた紙が私と精霊の王の目の前に現れ、互いの胸の中に入りました。
「さて、ところでこの子は何歳なんですか?見たところ七歳程に見えますが」
忘れていた確認を精霊の王にします。
「千と二百程でしょうか?吸血鬼の生き残りでして、この世界の吸血鬼は七歳までは人間と同じく成長しその後は自分に合わせた体に変えていくのですが産まれた時に誘拐されて此処に閉じ込められたので七歳で体が止まっているのです」
……まさか吸血鬼だったとは。
「生きるのに血は必要ではなかったのですか?」
千二百年の間閉じ込められ飲まず食わずのまま生きていられるとは考え難いです。
「ヴァンパイアではなく吸血鬼ですからね。それに幸か不幸か私と繋がっていましたから精霊の概念的な死がない限りは生きられるのです」
この子が産まれてすぐ誘拐されたのは不幸中の幸いでしたか。きちんと理解していれば心が壊れていたでしょうからね。
「では最後に、この子の性別と名前はありますか?」
「女の子ですよ。 名前はありませんので貴方が付けてくれるのなら助かります」
図書館で御逢いしましょう シキ @yukishiro8813
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