第5話 対価
「そろそろ帰りますね」
シロちゃんに起き上がってもらい立ち上がる。
「あぁ、なかなかに長居させてしまいましたね」
栞さんが申し訳なさそうに頬をかいています。
「あ、私のせいだよね……」
アイリスさんがケモミミをぺたんとさせ謝ります。
「いえいえ、ただ帰るタイミングを逃してしまっただけなので気にしないでください」
「では、次回来た時にはケーキでも焼かせてください」
次回が楽しみになりました。我ながら単純です。
「栞を使うのって半月の時じゃないとだめなんですか?」
「いえ、栞を使えば何時でも入れますよ。 ただ、此方側で閉めていた場合は扉が開きませんがね」
「基本出入り自由だよー」
それはそれで大丈夫なのでしょうか? 泥棒とか入られそうですが……
「盗まれたところで一週間で戻って来ますからね。 呪われてる系統の本もありますが、まぁ、自業自得ということで」
「「なにそれ怖い」」
でも少し気になります。
「やめた方がいいよ? ネクロノミコンとか読んだら狂うよ?」
え、そういうのまであるんですか。
「ありますよ? ほら」
心読まれましたそして出さないでください発狂したくないです。
とっさに目をそらしましたが禍々しい雰囲気だけは伝わってきます。
「そうするのが良いでしょう。 普通は百害あって一利なしですから」
ふと、禍々しい雰囲気が消えました。
「では駄龍、リアさんに最低限の知識だけは与えなさい。 一応産みの親なんですから」
「駄龍って言うのやめてくれない⁉ はぁ、んじゃこれ食べてー」
聖龍(大)さんが小さい宝石のような白い玉をリアさんに食べさせました。
「はい、とりあえず最低限の能力の使い方と、此処に繋がる扉の開け方だけ教えたよ。 あとはよろしくね。お母さん」
冗談目かして言っていますが、子供の誕生を喜ぶ母親の表情でした。
「あと八十年くらいは貴女の世界に居るから見かけたら声かけてねー」
じゃねーといい、その場から姿を消しました。
「ではリアさん、あの方から人化の方法も教えて貰ったでしょうしやってみてください」
栞さんがリアさんにそう言うと、ぽんっと軽い音がして、
「これでいい?」
アイリスさんを幼くした感じの五歳くらいの少女が立っていました。
「はい、よくできましたね。 貴女の正体が発覚するとお母さんが狙われてしまうでしょうから、お母さんを護れるくらい強くなるまでは人化を解いてはいけませんよ」
生まれたての子には酷ではないかと思いましたが、
「わかった」
リアさんは真剣な表情で頷きました。
「良い子です」
栞さんが優しく頭を撫でます。
「アイリスさん、聖龍の子供は純粋故に善くも悪くも育ちます。 頑張ってくださいね」
「曖昧⁉」
リアさんに比べて凄く曖昧なアドバイスです。
「どう育つかは貴女次第ですからね。 私がどうこう言えるものではありません」
凄く良い笑顔です。
「うぅ、親とかさっぱりなのに」
「一つ言えることは良いことをしたら褒めて悪いことをしたらきちんと教えてあげることですかね。 本の受け売りですが」
「うーん、頑張る」
一言二言話し、扉から帰って行きました。
「またの御越しをお待ちしてますね」
私は特に無いですからね。 あっさり。
「あれ、栞さん顔色悪くないですか?」
もともと白いのですが青白い感じになってます。
「いろいろ濃い一日でしたからね、 少々疲れました」
そう言えば基本は月に二度だけですしアイリスさんとリアさんの事など濃い一日でしたね。
「シロも紅葉も貴女の事が気に入ったみたいなのでよかったらまた来て下さい。 ケーキのこともありますしね」
ふわりと栞さんが笑います。幼い、子供のような笑顔で。
「ではまたお邪魔させてもらいますね、お邪魔しました」
栞を本に挟み、扉を出して開きます。
「「またねー」」
シロちゃんと紅葉さんが手を振ってくれました。
「はい、また来ます」
手を振り替えし扉をくぐりました。
「っ、ゲホッ!」
あぁ、流石に疲れましたね。口を押さえた指の隙間から赤い液体が流れ落ちます。
「疲れたじゃなくて関わりすぎよ。 名前まで決めるなんて」
紅葉が呆れた表情でタオルをくれました。
「仕方ないでしょう、 流石に今回の事は予想出来ませんよ」
えぇ、ほんと、あの方の子供がこの世界で産まれるなんて予想出来ません。
「この世界のルール、与えすぎても貰いすぎてもいけない。等価交換が成立しなければ貴方に返ってくるのはわかってるでしょうに」
「将来性を見込んで、と含めたのですが流石に足りませんでしたね」
名前を決めるのはその人の性質を変える可能性がありますからね。 だからこそあの本を出したのですが……
「まぁ、あの本を読んで良い感情になるなんて滅多に見れませんからね。 珍しいものを見れたと言うことで」
「お人好し」
紅葉が悲しそうな顔をしてます。 そんな顔をさせるつもりではなかったのですが。
「カナメ、残念だけど休めないみたい」
シロが私の昔の名前で呼びます。
玄関の扉の横にもう一つ、水面の波紋が広がるように扉が現れます。 古いですが、頑丈そうな木製の扉です。
この扉は此方側からの一方通行。 理を壊す何かを回収するまで帰れない面倒な扉。
「ゆっくり休みたかったのですがね。 仕方ありませんか」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。 鬼は嫌ですねぇ……
「では、留守をお願いしますよ。二人とも」
「「行ってらっしゃいませ。 お気をつけて」」
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