第2話 栞

「おすすめの本とかありますか?」

そりゃ、聞きます。だって壁一面と言いましたが本棚の横が無数に並んでて奥が見えないんですもの。

「おすすめですか。どんな本が好みですか?」

「恋愛もの、ですかね」

そう言った瞬間後ろからドサドサッと音がしました。

後ろを見てみると……

「……はっ⁉」

大量の本が積み重なってました。

「恋愛ものの本は多いですからね。もう少し絞れませんか?」

「いや、えっ⁉」

驚きすぎて言葉が出ません。

「お兄ちゃん、いじわるい」

いつのまにかカウンター席に座って本を読んでた女の子がジト目で睨んでます。

「数少ない娯楽だからね」

イケメンさんがいい笑顔で応えます。この人Sです。

「簡単に言ったら望んだ本が出てくるの。こんな風に」

女の子が掌を上に向けると一冊の本が空中から出てきました。


説明されてもさっぱりです……


「説明されてもわからないと思うのでそういうものだと思ってください」

イケメンさんに笑顔で言われました。見透かされてます。

とりあえずやってみます。純粋できれいな恋愛の物語。我ながら曖昧だと思います。

トン、と音がするとカウンター席のテーブルに一冊の本がありました。

「いきなりできるなんてお姉さんすごいね」

女の子がびっくりしながら褒めてくれました。

「正直驚きましたね、皆さん少なくても二桁の本が出て来て迷うのですが」

イケメンさんも驚いてます。

「そんなに難しいんですか?」

「お兄ちゃんが迷ってる姿を見て楽しんでるくらいには」

よくわかりませんが難しいみたいです。

「ここをあまり空けていられませんからね、娯楽が少ないんですよ」

イケメンさんが笑顔で言います。やっぱドSです。

「すごく曖昧に考えたんですけど……」

「うーん、曖昧だと大量に出てくるはずなのに……」

女の子が首を傾げて考えてます。かわいい。

「紅葉に気に入られたんでしょうか?」

人でしょうか、新しい名前が出てきました。

「そういえば外に居たね」

紅葉さんが外にいたのでしょうか?回りに誰もいなかったと思うのですが。

「普通は玄関の扉と繋がってるのですが……」

イケメンさんがこっちを見て首を傾げました。

「そういえば名前聞いてませんでした」

「あ、千秋です。千の秋で千秋」

「私は■■■です」

「え?」

名前が聞き取れませんでした。

「あれ、おかしいですね。シロはどうです?」

シロと呼ばれた女の子は私の反応でわかったようで、

「私の名前は聞こえてるみたいね」

シロは女の子の名前みたいです。

「では栞でいいです。これなら聞き取れますか?」

「あ、はい。大丈夫です」

なぜ栞さんの名前は聞き取れなかったんでしょう?

「では千秋さん、扉を開いたと思うのですが何処に繋がってました?」

「紅葉の前に扉が繋がってましたよ? 何もない空間に扉がぽつーんと立ってて違和感ありましたけど」

「なるほど」

栞さんが首を傾げて考え込んでいます。


バン!


扉が乱暴に開かれ、びっくりして飛び上がりましたやめてください心臓に悪いです。

そう思いながら扉の方を見ると、

「ケモミミ?」

獣の耳をつけた女の子が飛び込んで来ました。

「え!ここどこ!?」

「あ、説明にちょうどいいのが来ましたね」

栞さん、すごくいい笑顔です。

「あ、ここどこ!? さっきまで洞窟に居たはずなんだけど」

「はい、ここは弓月図書館ですよ」

警戒してるのか扉から離れず、耳をピクピクさせていますかわいい。

……あれ、動いてる?なんで?

「いろんな世界から人が来ますからね。他にもいろいろ来ますよ?」

栞さんが説明してくれました。常識は投げ捨てるものなのですね。

「図書館?なんで洞窟に?」

「偶然あっただけですよ。色んな場所に現れるようですし」

「ここは安全?」

「本を破いたり汚したりしなければ安全ですよ?」

……なんでしょう、一瞬ですが空気が凍りついたような感覚が。

女の子も感じたのか首を縦にブンブン振ってます。

「とまぁ、こんな風に店の扉に繋がる筈なんですよ」

「なるほどー。あ、扉が無くなってたんですけどもしかして帰れないんですか!?」

「あー、先程本を出した感覚で栞を出そうとしてみて貰えますか?」

よくわかりませんがやってみます。

手のひらを上に向けて細長い、飾り紐のついた栞。

手のひらに何かがある感触がして目を開けると、

「わ、綺麗」

形は想像のままでしたが上に半分の月があり、紅葉の絵が描かれていました。

「それを先程出した本に挟んでみてください」

言われた通りにしてみると本が浮かび上がりました。

「え、なに!?」

そして本が光ったと思ったら目の前に入ってきた時と同じ扉がありました。

「その栞はこの場所と繋ぐ唯一のものです。これからはいつでも来れるようになりますよ」

「半分の月が昇る日だけじゃないんですか?」

「これが例外です」

先程の例外と言っていたのはこの事みたいです。

「おめでとう、紅葉に好かれたのは貴女で五人目ね」

シロちゃんが嬉しそうにしてます。

「ところで紅葉ってなんですか?」

「私のことよ」

栞さんの隣に急に人が現れましたびっくりしすぎて飛び上がりました何度目ですか私。

真っ赤な膝まである髪に、なんの装飾もないドレスの様なものを着ている女性でした。また美人です。しかもこれ以上の美しさは無いのではないかと思うほどの美人です。

「貴女のことが気に入っちゃったからいつでも来て下さいね」

紅葉さんが微笑みながら言って、

「……はい」

これしか言えませんよ!ドキドキしましたよ!


「無視するなー!」


あ、ケモミミの女の子のことすっかり忘れてました。

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